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第44話

「少し、さっきの話の続きをしても良いですか?」 風呂を上がった後、どうしても原田さんはどの程度字が読めないのかが気になり、ベランダで隠れるように煙草を吸っていた原田さんを部屋に呼び戻した。 「なに?…コーヒー淹れる?」 「いえ、大丈夫です」 「もしかしてなんですけど……その、携帯に登録してる俺と甲斐さんの名前、どちらが俺でどちらが甲斐さんかわかりますか?」 原田さんは無言で勢いよく首を振った。 「あー、すみませんでした。えっと……」 鞄の中からペンとメモ紙を取り出して、自分の名前と甲斐さんの名前を書いた。 「こっちが俺、古谷で、こっちが甲斐さんです」 「貸して」 手元からペンを奪った原田さんは、紙の空いたところに感じを練習し始めた。 原田さんの字はお世辞にも上手いとは言えないが、愛嬌のある文字。 「下の名前も教えて。あと、ひらがな?も」 またペンを受け取って、裏の方に古谷楓と甲斐光輝と書いた。 勿論、そこにはふりがなも添えた。 「古谷くんの下の名前、難しいね。甲斐さんの名前も」 苦笑いする原田さんを見て、人生で始めて一とか、簡単な漢字の名前だったら良かったのにと思った。 「原田さん、自分の名前って書けますか?」 「うん。漢字だけだけど。名刺?でよく見てたから」 「じゃあ、ひらがなを教えます」 また新たにメモ紙を取りだし、『はらだふうま』と書いた。 「俺の名前、こんな形してたんだ」 「形って…」 「おかしい?」 「いえ」 「古谷くん、」 「はい」 「お願いがあります」 畏まった原田さんを見て、こちらも背筋を伸ばした。 「字を、教えて下さい」 「喜んで」 原田さんに何かを与えられる事が、自分にとって最高の幸せ何だなと、今更ながら実感した。
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