45 / 51

勇者という名の暗殺者

ヒュウガのもふもふに思う存分、顔を埋めて癒されている。 アスの触手をぷにぷに握ったり伸ばしたりして癒されている。 「……ねぇ、ヒュウガも……人間を殺す?」 俺の質問にヒュウガは人に戻り俺を撫でてくれた。 俺が本当に聞きたいことを分かっているのだろう。 アスには聞けないのに……ヒュウガに甘えてるな……俺。 座るヒュウガの腰にしがみついて、撫でてくれる手に甘える。 「魔物に……安息の地なんて無いから……」 脇の下に手を差し込まれ持ち上げられて抱き締められた。 「人間がみんなカラスマみたいだったら殺さなくてすむだろうな」 「……俺みたい?性奴隷?痛っ!!」 デコピンされた。面の上からだとヒュウガの方が痛いだろうに。 「性奴隷って言うほど俺はやらせてもらってないぞ」 ブスッとしてヒュウガは俺の面を少し持ち上げキスをした。 「こんなに愛されてる奴隷なんていないだろ?」 触手もそうだと言わんばかりに、顔に擦りついてくる。 「ほら、家の中でじっとしてるから変な考えが浮かぶんだ」 狼になったヒュウガは俺に背中に乗れと促してくる。 草原をヒュウガの背中に乗って駆けていく。 頬を掠める風が気持ちいい……。 「………ありがとうヒュウガ」 ヒュウガにギュッと抱きついた。 ――――――― この場所に俺に害を与える者は入れないのだと思っていた。 俺のためにスキルが作ってくれた俺の場所だと思っていた。 斬りつけられて血を流し倒れるヒュウガ。 細かく斬られ動かない触手。 ここにいれば命の心配は無いのだとそう思っていた。 ――――――― 「俺は勇者ジークフリート」 突然、襲いかかって来た殺人鬼は勇者と名乗った。 勇者を名乗ったその男は俺に剣を向けている。 勇者って無抵抗な人間を殺す人だっけ? 「人を惑わす穢れた魔物よ……地に還れ!!!」 勇者は縦一閃に剣を振り下ろした。 あぁ……俺、死んだな。 烏天狗の面が真っ二つに割れて落ちる。 烏丸と烏天狗……同じ烏で気に入ってたのにな……。 額から流れ落ちてくる血が口の中に入る。不味い。気分が悪くなる。 「魔物……何故抵抗しない?」 俺の後ろには横たわるヒュウガ。 俺が避けるとヒュウガに攻撃があたるじゃないか。 魔物か……リーダーにも言われたな……。 勇者の剣のその切っ先が俺の唇に触れる。 「それもお前の術のうちか?正体を現せ」 人間だと言った俺を勇者は魔物だと言い切った。 人狼のヒュウガも魔物に付くなら所詮、亜人も魔物と斬り捨てた。 魔物では無い、人ではない……俺は何なのか。 蔑みの眼差し……。 俺は魔物では無いけれど……。 魔物だと決めつけられて問答無用に切りつけられる。 ヒュウガの安息の地なんて無いとはこういうことか。 殺さなければ、殺される。 アスに人を殺すなと言うことはアスに死ねと言うことか……。 口にしなくて良かった。 安堵して思わず笑みが溢れる。 「…………っ!!」 勇者の剣が揺れて俺の唇を傷付ける。 勇者の瞳に一瞬、動揺が宿った。 勇者の腰にヒュウガがしがみつき、俺を逃がそうとしてくれる。 「カラスマ……逃げろ……」 そんなヒュウガに勇者は剣を何度も降り下ろす。 リンフィのとは違う悪意の無い殺意に戦いた。 俺は咄嗟に剣を持つ勇者の腕にしがみついた。 「やめてっ!!死んじゃう!!殺さないで!!」 俺は命乞いをした。 俺の知っている勇者という人物像は慈悲深く、分け隔てなく愛を与える人。 「魔物のくせになぜ他を庇う?……この狼が本体か?正体はスキュラか?……何を企む?」 融通が利かない……。 俺の意見等聞く耳も無い。 勇者の剣が俺の服を切り裂いた。 「なっ……何を!?」 「その正体……俺が暴いてやろう」 悪意も欲望も何の感情も無い目が俺を見下ろしていた。
いいね
笑った
萌えた
切ない
エロい
尊い

ともだちとシェアしよう!