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第十章・世界の果てにて⑧

「どうして二人がここにいるんですかっ。メルディナ、あなたは気を失っていたのに……」 「舐めないで頂きたいですわ。わたくしは魔王の妹姫ですわよ? わたくしの魔力をそこらの魔族と一緒にしないで」 「それは分かっていますが」  やっぱり意味が分かりません。  困惑する私にフェリシアは微笑し、メルディナはフフンと鼻で笑っている。 「ブレイラ様が冥界へ行こうとすることは予想できていました。御供させていただきたく参上した次第です」 「人間如きが今の冥界へ行って無事でいられると思わないでほしいですわ」 「えええ!?」  予想もしていなかった二人の言葉に目を丸める。  二人は自分が何を言っているのか分かっているのでしょうか。 「ま、待ってください、意味が分かりませんっ。たしかに私は冥界へ行きたいと思っていますが、だからといってどうしてあなた方が……。あなた方だって、只では済まないかもしれませんよ!?」  こんな勝手なことが許されるはずがありません。  私だけでなく、メルディナやフェリシアまで冥界に行ったとなれば城は大変な騒ぎになります。 「それなら尚の事ですわね」 「その通りですね、メルディナ様。不問で終わらす為には、ブレイラ様を無事に魔王様の元に送り届けるしか方法はないかと」  尤もらしい口調でメルディナとフェリシアが言いました。  でも待って。やっぱり意味が分かりません。  それにどうしてハウストが関係あるんですか。 「ハウストの所へ行くなんて誰も言ってないじゃないですか! 私はゼロスの様子が気になるだけです!」 「そのゼロスはお兄様といるんですから一緒のことですわ。だいたい」  メルディナはそこで言葉を切ると、ハウストが張った結界に近づいていく。  結界の前で立ち止まり、柔らかで弾力のあるそれを指でつっついた。 「この結界、人間のあなたに破れると思ってますの?」 「っ、それは……」 「無理なことは承知よね。まったく、これでどうやって冥王の様子を知るつもりかしら」 「う、うるさいですよ」  やっぱり可愛げがないです。  相変わらず生意気なメルディナにムッとしてしまう。でも、以前のような彼女に戻ってくれて少しだけ嬉しい。もちろん本人には言ってあげませんが。 「それにしてもこの結界、厄介ですわね。さすがお兄様ですわ」  メルディナが結界に触れながら言いました。  触れた部分がぽよんと弾力して、虹色に淡く発光する。憎たらしい結界ですが、やっぱりとても綺麗。まるで水風船に触れたような感触はとても気持ちいいものです。  厄介なことに変わりはありませんが、結界のイメージが変わりました。もっと硬質で強固で恐ろしいものだと思っていたので。 「私、知りませんでした。結界を間近で見たのは初めてなんですが、結界って触れるとこんなに気持ち良くて綺麗なものだったんですね」  結界のぽよんぽよんの感触と虹色の輝きを楽しみながら言いました。が、メルディナとフェリシアが真顔で私を見ている。 「……な、なんですか、その顔は」  二人の真顔になんだか居心地が悪い。  しかもメルディナの方は盛大に呆れた顔をしたのです。 「……これはお兄様の演出ですわ」 「演出?」  思わぬ言葉に目を瞬く。  意味が分かりません。  首を傾げた私にフェリシアが言い難そうにしながらも教えてくれる。 「ブレイラ様、結界とは外部からの侵入を防ぐものです。ものによっては触れるだけで致命傷になるものもありますし、攻撃魔法が発動する罠が仕掛けられているものもあります。結界は攻撃的防衛魔法ですので、不用意に触れるのは危険なものでして。……本来、決して柔らかな感触を楽しむ為のものではなく」 「ええっ!」  慌てて手を引っ込めました。  とても気持ち良かったので、ぽよんぽよんと何度も押していたのです。  結界から飛びのいた私に、メルディナが更に呆れた顔をする。 「これは大丈夫ですわよ。お兄様が、どこかの誰かが考え無しに突っ込んで怪我をしないように細工してますもの。……まったく、こんな甘い細工がしてある結界なんて初めて見ましたわ」 「触れると虹色に輝く結界なんて、私も初めて見ました」  フェリシアも同意する。  なぜでしょうか。二人は和やかにハウストのことを話しているのに、なんだか、少し、怖い。 「力の無駄遣いですわね」 「ふふふ」  フェリシアが真顔で笑っています。  背中に冷たいものが走ったのは気の所為ではないでしょう。  私は二人から目を逸らすように結界をちらりと見る。  触れると柔らかで虹色の光を放つ結界。それは私の行動に先手を打たれたものですが、ハウスト、あなたって……。
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