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ローブと剣 3.

 アーベルの体はしなやかで柔軟だ。この魔術師の体は、剣の訓練を重ねてぶあつい盾となった騎士の筋肉とはちがう種類のもので、器用で、実用的で、耐久性がある。うつむいて細かな図面に没頭するときも、いまのように快楽で切迫してクレーレを締めつけているときも。  彼はいまクレーレの上に座るような体勢で深くつながって、クレーレが突き上げるたび、逃げることもできずに悲鳴のような喘ぎをもらしている。その腰はやがてみずから快感を求めて動きはじめ、まぶただけは抵抗するように固く閉じられて、クレーレをさらに興奮させる。すでにしずくを垂らしているアーベルの中心に手を添えて擦りあげる。「っあ、あああ――」忘我の声をあげて彼が達したのを内側で感じながら、熱く吸いつくうねりに覆いかぶさる。陶然と腰を打ちつけて精を吐き出す瞬間、クレーレ自身もうめき声をあげている。  荒く息を吐くアーベルの背中を撫で、皮膚のなめらかさを感じながら並んで横たわる。ざっとかぶった毛布の下からアーベルの眸がこちらを向いて、つとそらされる。抱きあったばかりなのにアーベルが遠くにいったような気がするから、彼の顎を引き寄せて、そっとついばむように唇をつけ「好きだ」とささやく。  アーベルと体を重ねるたびにクレーレは同じようにささやいている。アーベルが同じ言葉を返してきたことはない。だが今夜は触れる彼の手にすっと力がこもり「おまえ、いつまで…」といいかけて、やめた。   「ん?」 「なんでもない」 「いってくれ」 「いや…大丈夫なのかと思っただけだ。俺とこんなふうに付き合ってて…」  つぶやいて、アーベルはなおためらい、横をむいて目線をそらす。 「…いいんだ。なんでもないっていっただろう」  何かをあきらめたような弱い吐息だった。クレーレは眉をひそめ、こちらに背中を向け丸くなるアーベルの肩に腕をまわす。眠ったのかと覗きこんで、見返してくる眸と眸が合う。じっとみつめて、ふいにクレーレは理解した。  どれだけ好きだとささやいても、アーベルは信じていないのだ。これがほんの一時のクレーレの気まぐれだと思っている。  気づいてもクレーレは不思議と落胆はしなかった。だが、なぜアーベルはそう思うのだろう。男同士だからか? それとも自分が貴族の生まれで、騎士だからだろうか?  アーベルを抱いて愛をささやくのは、クレーレには何の問題もないことだった。騎士団ではもともと、異性の恋人がいない相手と友愛の一環として寝るのは珍しくなかったが、クレーレは少年のころからそもそも女性に性愛として興味をもてない自分を知っていた。  だが男を相手にしても、恋人といえるほど固定した相手がいたことは一度もなかったし、騎士団ではありがちな話だったが、親友とそんな関係になったこともなかった。つまりこの謎めいた魔術師が自分がはじめて愛した相手なのだ。  そんな存在ができるとは思っていなかったし、できた以上、離す気もなかった。  何しろ自分は頑固で前向きでへこたれないレムニスケートなのだ。アーベルが信じないのなら、信じるまで続けるだけだ。    そう思うと妙に静かに心がすわった。クレーレはアーベルの頬に唇をよせ、低く「もっと城でも、逢いたい」とつぶやく。  一瞬おいて、腕の中の体がぶるっと震え、アーベルは「おまえ、馬鹿だな」 と苦笑まじりにいった。 「馬鹿でいい。たぶん、馬鹿なんだろう」 「…いいよ。おまえがそう思っているのなら。ただ、俺はおまえの邪魔になるようなことはしない」  ふたりとも暇ではなく、逢瀬に向いた場所もそうそうないから、王城でアーベルと逢うには工夫が必要だった。自分の仕事をうまく回せばなんとかなるだろう。クレーレはそう胸算用する。  翌週、クレーレに王家付き近衛隊への推挙が上がった。近衛隊は王城の中心部に位置する王宮へ四六時中詰めていることになる。  レムニスケートの子息としては妥当な出世といえるだろう。だが、城壁近くの塔にいる回路魔術師に逢うのは難しくなった。
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