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第7話 寝起きのいいヤクザ

  「んー……」  ――ああ、あったかい……何でだろう……。  まぶたの向こうにほのかな明るさを感じた僕は、うとうとと目を覚ました。  そして、刮目する。 「おはようさん」 「ヒィッ…………!!」  全身が密着する距離で肘枕をし、微笑みを浮かべながら僕を見下ろす椿さんの顔が、視界いっぱいに映っている。  あたたかいのもそのはずだ、僕と椿さんは一つの布団に入り、しかも大きくむき出しになった素足同士が触れている。しかも、椿さんは空いたほうの手で僕の髪を梳いているではないか。これはいったいどういう状況だ……!!??  混乱する僕をよそに、椿さんは機嫌の良さそうな笑みを浮かべたまま。寝癖のつきやすい僕の髪をくるくると指に巻き付けたりしながら、すり……と僕の脚にご自分の脚を絡ませてくる。……あっ……なにこれ、くすぐったい……。 「めっっっちゃよう寝れたわ。すごいやん、お前」  そういえば昨日、お祓いの直後にばったり倒れて眠り込んでしまった椿さんを、岩瀬さんと客間に運んだことを思い出す。拝殿の扉の前に控えていた岩瀬さんが、異変を察してすぐに駆けつけてくれたのだ。  あまりにも深く眠っている椿さんを見て、岩瀬さんは心底安堵したようにため息をついていた。そして、「すみません、紬さん。大変申し訳ないのですが、若をここで休ませてやれませんか」と、僕に深々と頭を下げた。  もちろん、僕はすぐに頷いて、客間に布団を敷いた。そして、「ぐーーー……ぐーーー……」と安らかな顔で眠る椿さんを僕に託して、岩瀬さんは「では、私は外におりますので」スッといなくなってしまった。  初めてのお祓いで、僕もひどく疲れていた。服を着替えるのも億劫で、斎服として身につけていた狩衣と袴を何とか脱ぎ、単衣になった状態で、目をこすりながらもう一度椿さんの様子を窺いにきた。  そしてその時、唐突に布団に引き摺り込まれてしまったのだ。慌てもしたが、椿さんの体があたたかくて、いい匂いで、いつしかそのまま眠ってしまった……。  ――あー……そうだ、逃げようとしたけど腕力強くて全然抜け出せなかったんだ。あのまま寝ちゃうなんて、僕も疲れてたんだな……。  と、僕が昨夜のことを思い出す間も、椿さんはじっと僕の顔を見下ろしている。  ――クマが消えてる。顔色もいいし……こうして見ると、この人ってほんと、きれいでかっこいい顔してるんだなぁ……。  お祓いの成果を嬉しく思いつつも、この異常な距離感は何だ。落ち着かないこと山の如しだ。さりげなく目線を逸らしつつ、もぞりもぞりと距離を取ろうとすると、椿さんはぐっと僕の顎を掴んで自分の方を向かせた。ご、強引……。 「身体もめっちゃ軽いし、こんなええ気分久しぶりやわ。お前のおかげやな」 「は、はぁ……よかったです……」 「なぁ、何が欲しい? なんでも買うたんで」 「えっ、いえいえそんなめっそうもない……。え、ええと……初穂料……あ、あの、お祓いの料金は五千円ほどなのでそれでだいじょぶで……」 「五千円? ハァ? ふざけたこと抜かしたらあかんで!!」 「ヒッ!! ごめんなさい!!」  突然ギロォ!! と椿さんの目が鋭くなったものだから、僕は思わず縮み上がった。だが椿さんはすぐに表情を緩め、なぜだか愛おしげな表情を浮かべつつ、今度は指の背で僕の頬を撫でている。……こわい。 「あれだけ世話んなったのに、五千円とかありえへんやろ。欲のない子ぉやなぁ、紬は」 「はい? い、いえ……そういう決まりなので……」 「それじゃ俺の収まりがつかへんわ。五百でどうや」 「え? ごひゃくって……五百万円!!!? そ、そんなの受け取れませんよ!!」  言い出す金額の桁が違いすぎてめまいがする。呆然としている僕の表情を見て、椿さんはふっと笑った。そして、今度は僕の耳たぶを優しい手つきで弄びながら、そっと顔を近づけてきた。 「……なら、何が欲しい。なんや欲しいもんのひとつやふたつ、あるやろ」 「え、ええ〜……?」 「お前は、俺の命の恩人や。して欲しいこととか、ないんか」 「へっ……」  ちゅ……と鼻先にキスをされ、僕は二度目の刮目をした。  いつの間にやら僕の上に覆いかぶさる格好になった椿さんの整った顔が、目と鼻の先にある。しかも、椿さんの浴衣の裾は大きく割れ、すべらかな脚が僕の太ももにするりと触れていて……くすぐったいけど、何だか気持ちいい……。 「神社の家の子ってのは、いつもこんなエロいカッコで寝んのか?」 「えっ、違いますよ! い、いつもは、ぱ、パジャマで……」 「へぇ……そぉか。俺は(マッパ)で寝るけどな」  ヤクザのパジャマ事情にはあまり関心がないのだが、昨夜着ていた単衣は完全に寝乱れてしまっている。帯も緩んで今にも前がはだけてしまいそうだし、脚なんてほとんどむき出しで……。  ――どうしよう。なんか、変な空気になってない……? と、僕は危機感を抱き始めた。 「お前、いくつやっけ」 「へっ……? じゅ、じゅう、十七です、けど」 「ふうん、十個下か。どおりで、肌が綺麗なわけやな」 「んひ、っ」  案の定、すり……と太ももを撫でられた。大きな手が、僕の脚のラインを辿るように上下している。  その触り方はあまりにも淡く、今までに感じたことのない性的なくすぐったさに、変な声が漏れてしまった。すると椿さんはニィ……と悪魔めいた笑みを浮かべて、ちゅ、ちゅ……っと僕の頬や耳元にキスをし始めた。 「あ、あのっ……なに、してるんですかぁっ……!!」 「十七なんて、ヤリたい盛りやろ。女、いいひんの?」 「お、おんな!? ……そんなの、いませんっ……」 「ほな、溜まったときはどうしてんの?」 「そ、そんな……の、自分でする……っていうか……」 「へ〜ぇ」  ――い、一体僕は何を言わされているんだ!!!  羞恥のあまり顔が真っ赤になっていく。やっぱり逃げたほうがいいと思い直した僕は、身じろぎをして椿さんから離れようとした。  だが、ぐっと肩を掴まれて、また布団に逆戻りだ。その拍子にすっかり単衣の前ははだけてしまい、凹凸のない上半身があらわになってしまう。すると椿さんは僕の首筋に唇を寄せ、楽しげな声でこう言った。 「お祓いの礼に、しよか」 「へっ……な、なに、をですか……」 「決まってるやろ、……気持ちええことや」 「け、けけっ、けっこうです!! ぼ、ぼくはそんな、」 「ふふ……遠慮すんな、抜くだけや」 「あ、え、うそっ……」  僕の太ももをいやらしく撫でていた手のひらが、もっと上へと登ってくる。同時に首筋をきつく吸われて、僕はまた「ひんっ……」と情けない声を漏らしていた。  ボクサーブリーフの中心を思わせぶりに揉みしだかれ、同時に耳たぶをやわやわと唇で弄ばれる。熱く濡れた舌先で僕の耳孔をねっとりと舐め回しながら、椿さんが「ハァ……」と色っぽい吐息を漏らした。な、なんでそんなエロい声出すんですか……!? 「んっぅ……ん、やめ、やめてください……っ」 「そんな甘ったるい声でそんなん言われてもな。もっとしてって言ってるようにしか聞こえへん」 「ぁっ……ま、まって、そんな」  こういうことは女性とするものだということくらい、奥手な僕でも知っている。でも、あまりにもセクシーな低音ボイスと、快楽のツボを心得た巧みな手管に、僕の股間は反応してしまっている。  帯は解けて、中途半端にもたついた単衣の下、布地を押し上げているのは僕のペニスだ。  パンツのゴムの部分を指先でくいっと引き下げられるや、障子越しに差し込む朝の光の中、固く反り返った僕のそれがむき出しにされてしまった……! 恥ずかしすぎる!! 「ひえっ、み、み、みないでくださいよ!」 「若いなぁ……ほら、こんなによだれ垂らして、ガチガチやん。大したことしてへんのに」 「だって、椿さんが、いやらしい手つきで触るから……!! ん、んっ……」 「へぇ、この俺にエロいことされてんのに、なかなか威勢がいいやんか。……かわいいな、紬」  椿さんはさも愉しげにそんなことを言うと、形のいい唇を舌舐めずりしながら、婉然と微笑んだ。  そしてその唇が、今度は僕の胸元へと下りてきて……。 「ぁっ! ん、なにしてっ……ンっ……あ」 「ここ、舐められたことあるか?」 「あ、あ、あ、あるわけ、なっ……ァっ、ぁん、っ」 「感度ええやん。……気持いいやろ? ほら、どんどん硬くなる」 「ん、んっ、んぅっ」  じゅっ……ちゅぷっ……といやらしい音を立てながら、僕の乳首を吸っては放し、さらにれろれろと舌先で先端を舐め転がす。しかも下の方では、ゆるゆるとペニスの根元が扱かれている。  トロトロとだらしなく溢れ出す先走りのせいで、ペニスを愛撫されるたびにぬちぬちと湿った音が聞こえ始めた。 「ぁ、あっ、やだ、ァっ……あ、んっ……」 「……なかなかエロい声出すやん。お前、ほんまに初めてなんか?」 「は、は、はじめてですよ!! ていうか、も、やめ……ッ、ハァっ……」 「エロい子ぉやなぁ、紬。ハァ……俺もエロい気分になってきてしもたわ」  巧みな動きに翻弄され、いつしか脚を大きく開く格好にされていることに、僕はようやく気がついた。でも、そんなことはもうどうでもいい。  痺れるような初めての快感にずぶずぶと沈められ、僕は上下に腰を振っていた。もっと刺激が欲しいところに椿さんの手で触れて欲しくて、浅ましく腰を揺らしている。 「あ、あっ……ちくび、ッ……ン、やらっ……ぁ」 「ん……? それはもっと舐めろってことやんな?」 「ちがっ……! だって、へんなの、きちゃう……ちくび、ァっ……じんじんして、ハァっ……」 「……こんなに尖らせて、自分で腰振って。とんだエロガキやな、紬」 「ち、ちがう……っ!」 「ほんっま、かわいいわ……。もっとエロい声、出してみ?」 「んん、っ、ん、ぁ、ァう……ッ……!!」  すっかり硬くしこってしまった乳首を甘噛みされた瞬間、僕は敢え無く絶頂していた。びゅ、びゅうっ……!! と自慰とは比べ物にならないほどの甘い刺激が全身を駆け巡り、目の前が真っ白になってしまった。  ふわふわとした余韻はなかなか引かず、僕は何度も身体を痙攣させていたらしい。震えるまつげをゆっくりと持ち上げると、頬を上気させ、さっきよりも余裕のない表情で僕を見つめる椿さんと目が合った。 「ハァ…………ハァっ……ぁ……」 「お前……清楚そうな顔して、実はエロいこと大好きやろ」 「っち、ち、ちがいますよ!! だって、あんな気持ちいいこと、されたら……」 「ん? 気持ちよかったんや。ははっ、そうか」 「え? あっ、いや、そうじゃなくて!」    壮絶に恥ずかしい失言をしてしまったが、時すでに遅し。僕は真っ赤になりながら、今度こそ椿さんの下から抜け出した。お、今度は引き戻されなかった……。 「まぁええ。シャワーでも浴びてこいよ。溜まってたんやな、すごい量やで」 「っ〜〜〜〜! や、やめてくださいよそういうこと言うの!」 「ははっ、怒ってんのか? 早う行かんと、俺、お前にもっとエロいことしてまうで。それでもいいん?」  僕の精液でてろんてろんに濡れた手を持ち上げて朝日に透かしながら、椿さんはまた悪魔めいた笑みを浮かべた。僕はウッと詰まって、そそくさと着物を直し、立ち上がる。  ……うう、腰に力が入らなくて、ちょっとふらつきそうになったが、なんとか耐えた。   「……良くありません。シャワーしてきます……」 「ああ、そうせぇ」  そっけない口調でそう言うや、椿さんは僕に背を向けてごろんと布団に寝転んだ。……早く手を拭いて欲しいんですけど。  というか、あまりにもあっさりした椿さんの態度に、ホッとするやら拍子抜けするやらだ。あの流れだと、てっきり『俺のも口で奉仕しろ』とか言われるのではないかと思っていたのだが…………。  ――……ハッ!? 何を考えてるんだ!? ぼ、僕は、そんなふしだらなことを考えてしまうような人間だったのか!?   これまでの自分は性に対して淡白な方だと思っていたのに、椿さんに与えられた甘い快感が忘れられない……。  僕は深い深いため息をつきながら、いろんなもので濡れた身体を、熱い湯で洗い流した。
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