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第3話

「こんなものをデスクに持ち帰る俺の身にもなれ」 「まあまあ、そんなに気にしないですよ。今日はバレンタインですよ」 「なんで担当営業に、男にバレンタインもらうんだよ」  それでなくともよそ行きのこいつは普段のふやけた顔が鳴りを潜めて、無駄にキリッとした顔つきになる。普段が残念なだけで元はいいのだ。まさしく爽やかな好青年。うちの女子社員でも騒ぐものが多い。  そんな男にバレンタインをオープンに渡される俺の心中を察しろ。 「え、ちょっと牽制しておきたい」 「はぁっ? めんどくせぇことすんな馬鹿」 「だって先輩モテるし。今日はチョコ何個もらいました?」 「俺は毎年受け取らないんだよ」 「え、じゃあ、俺からだけ?」  急に花が咲いたみたいな笑みを浮かべる鴻上にまた俺の眉間にしわが寄る。目の前でデレデレとした顔で笑っている男を無視して、ラッピングボックスを突き返した。 「受け取らない」 「えー! 受け取ってくださいよ。せっかく作ったのに」 「……持って帰れ、家で食う」 「え?」  ぼそりと呟いた俺の言葉に鴻上はきょとんとした顔をする。そしてしばらくして言葉を飲み込むと、なぜだか耳まで紅潮させた。訝しむ目を向ければ、両手で顔を覆って俯く。 「やばい、水地先輩が可愛い」 「はっ?」 「先輩のそういうちょいちょい小出しにされるデレがたまらなくいいです」 「ば、馬鹿じゃねぇの。そんなことより、見積もりどうした。仕事しろ」  なんで俺まで変にドキドキしなくちゃならないんだ。ほんとこいつ面倒くさい。面倒くさくてたまらない。それでもひどく嬉しそうに笑う顔を見てしまうとその先の文句が続かない。  そもそもなんで俺はあいつと付き合う気になったんだっけ。別に男が好きなわけでもなかったし、女が嫌いなわけでもなかった。選択肢は少なくもなかったはずなのに、どうしてあれなんだろう。  確かに見た目もいいし、あれでいて仕事も出来るし、頼りになることもある。けれどその程度の人間はそこまで希少でもない。
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