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「ん、ふ…う」 ソファーにゆったりと座る葵さんの足の間に体を埋めてそこに吸い付く。 ほぼ無音の中、溢れた唾液の水音と俺の息遣いだけが聞こえる。 ゆるゆると上から髪を撫でられる感覚に目を瞑って愛撫を続けた。 結局ソファに座ったまま眠ってしまった俺が目を覚ましたのは外が暗くなってからで、いつの間にか隣にいた葵さんにキスされて、寝惚けたままコトに流れた。 昨日は何もできなかったから、精液を吐き出したばかりのそこを優しく口に含んでお掃除。 葵さんは静かなセックスを好む人だと思う。 昨日とさっき、まだ2回しか体を重ねてないけど葵さんはいつも俺の口を塞ぎ、また葵さん本人も最低限の吐息しか漏らすことがなかった。 それから、もうひとつ。 葵さんは情事中必ず目を閉じてる。 多分誰かを思い出してるんだろう。 眉間に寄せられた皺がそれを物語るように俺の胸を締め付けた。 「誰かの代わり」なんてもう慣れたはずなのに。 こんな仕事をしていて、本当に俺自身を求めてくれる人なんていやしない。 みんなみんな、俺を「誰か」と重ねてその時間を楽しんだ。 それが悲しい、なんて思わなかったのにな。 葵さんの手が俺の後ろ髪をくしゃっと掴んでもういいと言うように引っ張るから、最後にちゅっとそこにキスをして顔を上げる。 またゆるゆると髪を撫でる葵さんの手が、すごくすごく優しくて堪らなかった。 葵さんの目蓋の裏の人物が、羨ましくて仕方なかった。 ねえ、どんな人ですか。 俺はその人の変わりになれていますか。 もし変わりになれていると言ってくれるなら、俺はそれだけで十分なのに。 頭のどこかで、俺の中の貪欲で人間臭い部分が、愛して欲しいって求めてる。 この人に、想われたい。 なんて、叶わない願い事はしない主義なんだけどな。 「世那、おいで」 「はい」 葵さんのスーツを直してネクタイを締めた胸元にキスすると、上から葵さんの腕が伸びてきた。 従うように跨がればふわっと笑う葵さん。 あまり表情のない葵さんの笑顔は綺麗過ぎて、まるで作り物なんじゃないかって思う。 「冷蔵庫にサンドイッチ入れてたけど、腹減らなかった?」 「あ、すみません。結構寝ちゃったみたいで…」 「後でまた持って来させるから。あとこれ、」 ソファに腰掛けた葵さんの膝に頭を乗せて、緩く髪を撫でられる感覚に浸っていると、不意に首もとに吹き掛けられた香水に一気に現実に引き戻された。 甘い、といっても香料が強い感じじゃなくて、もっと自然な、サクラみたいな香り。 俺の体を起こしてぎゅうっと抱き締められてから、そういえば2回もヤったのにまだ抱き締められたことは無かったことに気付いた。 ああそうか、これは俺が「代わり」になってる人の香り。 「いい匂い。世那にぴったりだ」 「ありがとうございます」 「ん。毎日使って」 「はい」 俺に似合ってるなんて微塵も思ってないくせに。 俺は得意の愛想笑いで葵さんに微笑んで見せた。

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