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+4+ 違う、わざとじゃない。ついウッカリ。

 いつもコッソリ見てるだけで幸せなセラフィムが体温が移るくらい近くに居て、しかも此処は王宮(アン・パレ)の奥のセラフィムのベッドの上で、しかも、セラフィムが己の唇をその綺麗で長い指先で撫でている。 (~~~~ッッ!)  ノアは脳が沸騰しそうなこの状況にパニックになった。  頭に血が昇り、目はぐるぐるするし、じわりと滲んだ涙で前が見えない。  だから、間違えたのだ。  ――――カプッ!  そう、間違えて。気が付いたら、犬歯をキラッとさせるなり咬んでいた。絶対君主の綺麗な指先を――!! (ぎゃああああ――――!?) 「⋯⋯⋯⋯」  セラフィムが信じられないモノを見るようにノアを見た。  咬んだままの姿勢でシーンと沈黙が流れた。時間にしたら一瞬だったであろうその間はノアには永遠にも感じられた。 (わあーーーー! どうしよう。どうしようっ! どうし) 「⋯⋯驚いた。主を咬むなんてとんだ野良猫だね、君は」 「んぐっ」  言うなりセラフィムはノアの咥内に咬まれた指をそのままねじ込んだ。 「ん、んんんぅ⋯⋯!?」 「どうやら甘やかし過ぎたようだ。躾が必要かな?」  セラフィムの身を纏う空気が変わった。 「もう咬んでは駄目だよ。⋯⋯いいね?」  セラフィムの綺麗な長い指がノアの咥内をグチュグチュと掻き回す。 「ん⋯⋯うぅッ」  上顎を何度も擦られると何だか変な感じがしてノアはぎゅっと目を閉じた。  怒らせた。どうしよう。苦しい。どうしよう。 「せっかく優しくシてあげようと思ったのに気が変わったよ」  セラフィムの声が低く艶を増す。 「『お仕置き』に変更だ」  耳元に落とされた痺れるような美声。でもその内容は声に乗せた甘さとは程遠いと感じノアは身震いした。 (⋯⋯怒らせた。セラフィム様に嫌われた。咬んじまったから。だから、今から痛くて酷い目に合うんだ)  絶望的な気持ちでノアは目を見開いた。 「君が言葉で言っても分からない獣なら、身体で分からせるしかないね」  セラフィムが口角を上げる。横たわるノアを覗き込むセラフィムの長い藤色(ヴィオレ)の髪がノアの頰を撫でた。 「舐めなさい」  ずるりと引き抜かれた己の唾液で濡れそぼった指先を示されて、ノアは素直に従った。  己が咬んだ所が赤くなっている。おずおずと舌を伸ばす。泣きそうになりながら請いるように一生懸命に舌を這わせた。セラフィムの指にピチャピチャと猫の様に舌を這わせるという行為にノアは自分でも分からない興奮を感じていた。  なぜだろう。頰は染まり息は上がり体が熱くなる。  いけないことをしている様な背徳感を感じた。 「いい子だ」  セラフィムが満足そうに目を細めてノアの頭をくしゃりと撫でた。  安堵でじわりと涙が滲む。  嫌わないで欲しい。ちゃんとするから。お願いだから側に置いて欲しい。そう思った。 「ノア。君は自分が誰の所有物(モノ)か知っているかい」  セラフィムがノアの頰を撫でながら、つぅッと首筋に指先を滑らせた。 「うひゃっ」  ビリっと甘い痺れの様なモノが全身に走ってノアは驚いて小さな声を上げる。 「印をつけようか」  言うなりセラフィムの顔が見えなくなり、首筋に柔らかいモノが触れたと思うとぬるりと濡れた感触がした。 「うあぁ⋯⋯ッ」  驚いて身をよじると大きな手で両手首を捕らえられ、たやすく頭上で一つに纏められる。  そして、ヒュンっと現れた天使の輪(オレオール)がノアの手首にはまってキュンと収縮してしまう。 「なんだコレ、やぁ⋯⋯ッ、んんんっ」  濡れた様な感触が首筋を這い回る。れろれろと舐められている、首筋を、セラフィムに。  理解するなりカァーーッと頭が沸騰しそうになる。  途端に、ぢゅうううっと強く吸い付かれて、疼く様な痛みに身を竦めた。 「⋯⋯()ぇッ⋯⋯!」  ゆっくりと顔を上げたセラフィムは、ペロリと己の唇を扇情的に舐めながらノアの首筋をその綺麗な瞳に映して満足気に笑んだ。 「肉体での干渉は有効らしい⋯⋯」  意味の分からない独白に対し訝しげに顔をしかめるノアに、セラフィムは言った。 「君の所有者である私の印を付けておいたよ」 「⋯⋯しょゆうしゃ?」  両手を拘束されたまま、目を見開くノアを見下ろしてセラフィムはゆっくりと宣言した。 「そう。君は私の所有物(モノ)だ。それを今からじっくりと身体に刻み込んで、分からせてあげるよ」  ぞくりとしてノアは目を見開いた。  ノアは初めてセラフィムに会った時の感情を思い出した。 (怖い⋯⋯) 「私が怖いかい?」  怖い。怖いに決まっている。  絶対に敵わない相手に拘束されて、のしかかられて、怖くない訳ない。  それに今なんか痛かったし。  ノアはじわりと涙ぐむのを感じた。 「何、すんの⋯⋯?」  恐る恐る聞くと、セラフィムは至極愉しそうに目を細めた。 「さあ、何かな」  いつも清廉で美しく高貴なセラフィムがまるで狩った獲物を前に舌舐めずりする肉食獣に見える。  ノアは体格的にも光力的にも敵いようがない相手を前に、絶望的な気持ちで見上げるしかなかった。      
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