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° 音があまり鳴らないよう、ゆっくりと扉を閉めて出て行く彼を、見過ごそうかどうか少しだけ悩んで、結局追い掛けてしまった。 外はただボタボタと大粒の雨。暖かくなってきてはいるものの、夜はまだ少し冷える。雨が降っていれば尚のことだ。 玄関扉を開けて見てみれば、降り注ぐ雨の中、玄関先でびしょ濡れになりながら突っ立っている澪が、そこにはいて。 おい、と声を掛ければ、大げさなくらいに肩を揺らして、振り向いた。 「おまえ、何やってんの?」 「…………」 「カゼ引いたらどうすんだよ、とりあえず入れ」 「…………」 「ったく、おれまで濡れたじゃんか。おまえ風呂入ったんだろ? なのに何考えて……」 「…………っ、……」 「……泣くなよ、ごめん」 びしょ濡れになった手を引いて家の中へ戻れば、おれか、もしくはおれの言葉が怖かったのか、肩を震わせながら澪は俯いてしまった。 風呂場まで走ってバスタオルを取りに行って、おれの分と澪の分。持って玄関までまた走る。おれはなんとかなるとしても、澪がカゼを引いたら色々と大変だ。 頭の上にバスタオルをかぶせて、とりあえず拭け、と言えば、ゆっくりと澪の手は動く。 その間に着替えを持って来ようとして、気付いた。こいつの荷物、どこにあるんだ? リビングと客間には見当たらない。もう母親がタンスに入れてしまったのかな。そうしている間にも身体は冷えていくし……ああもう! 頭を拭き終えた澪の、びしょ濡れになったシャツを脱がせて、おれの服をとりあえずで着せた。パンツまでは濡れていなかったけれど、ズボンはびしょびしょ。 暖房をつけたリビングのソファに座らせて、びしょ濡れの服は洗濯機で脱水をして。 で、外で何してたの。と俯いたままの澪に聞いてみても、勿論返事はない。 寒くない? と聞けば首を縦に振ったので、怖さから俯いているのではない、と思う。 ……ああ、そうか、あのボードがないから、答えるに答えられないのか。 ボードがどこにあるかわからないので、キッチンの引き出しにある、いつも母親が使っているメモ帳とペンを澪に渡せば、ゆっくりと書き始めた。 『めいわくかけて、ごめんなさい』 「……いや、それは良いんだけど。何してたのって」 「…………」 「……話したくないなら、別にいいけど」 『ごめんなさい』 「もういいって。なんか飲む? あったかいの。何があるだろ……あー、ココアとか」 「っ、!!」 ココアが好きなのだろうか。ずっと俯かせていた顔をあげて、大きく頷いた。心なしか、表情も少し嬉しそうに見える。……気のせいかな。 牛乳を温めてココアを淹れて、手渡そうとすればぶかぶかのシャツのせいで余っている袖。折って捲って、ココアを渡せばやっぱり嬉しそうな顔。ありがとう、と声は無いけれど、唇は動いたような気がした。 ……なんか、変な感覚。 弟がいれば、こんな感じだったのかな。 自分用にミルクティーも淹れて、さっき食べようと思っていたシュークリームも持って、澪の隣に座った。 盗み見れば、澪はおれが隣にいても、特に嫌がったり怖がる様子もない。ココアのおかげか。ココア様々だな。 ずず、とミルクティーをすすったところで、少しずつでも歩み寄ってみれば、という快晴の言葉が頭を過って。……歩み寄る、ねえ。 「学校、いつから行くの?」 『つぎの月よう日からって、みっちゃんが』 「……その、みっちゃんって、母さんのこと?」 『うん。みっちゃんが、よんでって』 「あのおばはん……」 『お兄ちゃんのことは、なんてよべばいい?』 「なんでもいいよ、好きにして」 『じゃあ、しぐれくんだから、しーくん』 。
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