578 / 1398
、
「…………何、夢見てんだよ。綺麗なわけあるか!レキはなぁ!何人にもレイプされて、数えきれない程の男と関係を持った汚い奴なんだ!」
男が怒鳴る。
…………汚い。そんな事、自分が一番分かってる。
ガッ!零士が相手の胸ぐらを掴んで、持ち上げた。
目の前の異様な光景に理解が遅れる。
………………男が浮いてる。
「………は……ぇ……ちょっ………!」
男はパニックになってる。
…………信じられない!なんて腕力だ。
コイツだって185cmはある、同じα同士なのに……!
「テメェ。人が優しく言ってるうちにやめとけよ」
夕方のヤクザ風とは比べ物にならない位、恐ろしい声。今にも人を殺りそうな……
「零士!もういい!!」
慌てて零士の腕を掴む。
「……………お前には分かんないんだな。乗り越えるのがどんなに苦しくて大変か。恨んでも恨みきれなくて、ぶつける事も出来ない思いを流すのにどれ程、時間がかかるか。
レキは汚くない…………!過去に色々あったとしても、乗り越えてちゃんと前を見てる。それをお前ごときに否定されたくない。
素直で明るくて優しい いい子だよ。
お前が知った風に言うな!!」
珍しく声を荒げる零士。
それはその男を黙らせる為に言った言葉かもしれない。
だけど……
零士の言葉に目頭が熱くなる。
…………誰にも相談できなかったし、話せなかった。
繰り返されたレイプ。終わりが無いように感じた中学生の頃。誰も俺を助けてくれなかった。孤独でただ苦しかった。
……………俺自身も『自分は汚い』、そう思ってたんだ。
大嫌いだったαがそれを否定するなんて…………!
「零士。こんな奴、どうでもいい。早く行こう」
気を抜いたら、泣いてしまいそうで、唇を噛んだ。
零士がパッと手を離すと、男はその場に崩れ落ちた。怯えた目をする男を零士は睨みつける。
「……………お前、□□党の議員の息子だろ」
「え……」
明らかに男の顔色が悪くなる。不敵に笑って零士は言った。
「マスコミに高く売れるだろうな。『□□□□議員の一人息子の闇。激白!中学の時はレイプ常習者』。
大事な時期にネットは大炎上。広がる不信感。議員家族転落の末路。
俺、マスコミに山程、知り合い、いるんだ。面白おかしく書いてもらうよ。
…………録音もしといて良かった。テレビでも特集して貰おう。」
スティク型の録音機を見せてから、ボタンを押すと先程の男の声が聞こえる。
いつの間に…………!?
零士はクルッと背を向けた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!ただ、ふざけただけだろ……脅すとか……卑怯だぞ!」
慌てて男が怒鳴る。
「卑怯……?どの口が言ってんだ。お前は犯罪者。法律でさばけなかったとしても、俺がネットとマスコミの力で必ずお前の人生を滅茶苦茶にしてやる。
レイプして偉そうにほざいてるお前は何様だ?
紛れもない社会のゴミだ。一生、日陰で暮らせ。連日、マスコミに追われて、外出も出来ない位、追い詰めてやるよ」
零士の言葉がジリジリと男を追い詰める。
…………なんていうか、零士の方が危ない奴に見えてきたんだけど。
「ま、待ってくれ!謝るから!!」
男は手のひらを返したように零士にペコペコしてる。
カチャ。零士がメガネを外し、男の顎に触れた。
「今までの自分の行ないを反省しろ。二度とΩを否定するような馬鹿な言動はやめるんだ。
これからは人を大事にする思いやりを持った人間になれ。特にΩは大切に扱うように誓え」
「………………はい。誓います。二度と馬鹿な事はしません」
男の眼の色が変わる。
なんだ…………!?
あ……
『目を見たり触れると、相手は自分の言う事を聞き、自我がなくなる』
正体を見破った日の言葉を思い出す。
男はまるで人が変わったように俺に謝罪をして、その場から去ってった。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!