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絆 4

「ご馳走様でした」  光希が箸を置くと、目の前に座っていた晃希が光希の顔を見ずに言う。 「光希、凄い匂う」  風呂に入ったのは、三日前だ。考えてみれば着替えもしていない。下着さえもそのままだ。着替えもせずにずっとベッドに横になり、腹が減ったと思ったのでそのままここに来たのだった。  達臣が言っていた本能のままに動くというのはこういう事なのかと思って、光希は顔を赤くした。 「ごめん。風呂、入る」 「お風呂、沸いてると思うよ。入っておいで」  慶太は嫌な顔をせずに、にっこりと笑って言ってくれる。 「早く入れよ。そんな匂いばらまかれたら、こっちは堪らない」  光希は晃希の言葉の意味を特に聞き返すことはせずに、食べ終わった食器をシンクに持って行く。 「何それ、血? 怪我してんの」  晃希の言葉に光希が振り返ると、晃希が自分の肩のあたりを見ているのに気がついた。  晃希は立ち上がって光希のそばまで来ると、光希のYシャツの襟ぐりをぐっと掴み、後ろに引っ張って首元から背中を覗き込んできた。  思わず光希は肘で晃希の手を振り払った。晃希は呆然とした顔で、光希の顔を見ている。 「風呂、入ってくる」  光希はそう言うと、逃げるようにキッチンから出て部屋に着替えを取りに行った。  風呂場に行き、脱衣所で服を脱いでYシャツの肩のあたりを見た。乾いた血が何カ所かに滲んでいる。自分の背中を鏡で見ると、肩の辺りに複数の噛み跡があるのが見えた。  光希は浴室に入ると、浴室の鏡で再度肩の辺りを見た。肉が少し(えぐ)れているのが分かる。久我山が噛みちぎった跡だ。  そこにそっと触ると、まだ痛みがあった。今まで感じていなかったのに、意識をした途端、じくじくと痛みが湧いてくる。  久我山はこの肉を食いちぎり、食ったのだろうか。もし食ったとすれば、自分の肉が久我山の肉を形成するはずだ。  下らない。いずれ細胞は入れ替わる。それまでの短い期間、自分の肉が久我山を形成したとして、何になるというのだ。  それでも、光希は嬉しいと思った。ほんの短時間でも、自分の細胞が久我山の細胞に取り込まれてほしい。  光希は痛むのにも構わず、その傷口を撫で続けた。蘇るのは、久我山に抱かれた記憶だ。久我山の歯が食い込む感触。久我山のペニスが体内の奥深くに埋め込まれる感触。痛みと共に、その感触が思い出されてくる。          
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