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第36話

 桑嶋は、ここに来る前の局長の不機嫌すぎる様子を思い返し、それが自分の運命の番を寝取った相手に対する態度という理由だと納得がいった。  多分、局長は彼を諦めていない。ここのところ具合が悪かったのも、抑制剤の副作用とフェロモン酔いだろう。  すべてが合点がいくと同時に、運命はこの男にどれだけ酷い仕打ちを与えるのかと桑嶋は拳を握った。  いや、運命は全てを彼に与えていたのである。  人が稀にしか手に入れることのできない才能・身体能力、容姿、家柄、財産、出産できる能力と運命の番を産まれながらに与えた。  与えられすぎた故に、誰よりも不幸な人。しかも、それに満足せずに、誰よりも努力を怠ることをしない男。 「……解消なんてしない」  弟を心から愛していると正直に告げた男は、本当に不器用な人だ。 たとえ彼の一番になれないとしても、この人は決して与えられた愛情を裏切るようなことはしない。  桑嶋には母親のように彼を苦しませることはできない。 しかし、もしここで番を解消したとしても、彼は母親と同じようにはならないことは分かっていた。  抑制剤を使っていた彼の母よりも、薬が効かない彼は今の段階でも過酷なはずなのに、乗り切ってきた人だ。  持っている強さ故に、救って欲しいとも言えずにすべて自分で抱え込んでしまおうとする。憐れな人だ。  桑嶋はそっとその身体を抱きしめ返して、項に唇を押し当てる。 「オレは、アンタが欲しくて噛んだ。オレの意思だ。だからアンタはオレのモノだ。これからずっとオレだけのモノだ。だから、オレにアンタを救わせて欲しい」  真剣な表情でまるで征服するかのように囁かれて、統久は目を少し見開きふううと身体の力を抜いた。  統久は記憶の断片で心地よいぬくもりの中でそんな風に言われて身体を貫かれたことを脳裏で思い返す。  噛まれた瞬間に俺はこいつのモノになるのだと、身体が生まれ変わったような感覚がした。見開いた目からぽろぽろと滴が伝う。期待してなかったといえば嘘になる。この話をすれば、絶対に拒絶されると諦めてもいた。  救われたいだなんて思ったことなどなかったのに。 「……俺を救って……くれよ。セルジュ」 「本当に、いいのか……好きだ……好きだ」  母を救えなかった小さな自分ではなくなり、こんな強い人が身を預けてくれたことに桑嶋は胸の中に熱がともり、ぎゅうっと抱きしめて何度も想いを告げる。 「わかったって。俺がイイッて言ったんだから、もうグダグダすんじゃねえよ。デキ婚はイヤだぞ」  あんだけセックスしたんだから、もう孕んでるかもしれねえけどなと、統久も気持ちが落ち着いてきたのか冗談ぽく笑って言う。 「でも、孕むくらいのことはしたけどね」  下腹部を意味深に撫でる桑嶋に、何したんだよと焦った統久は詰め寄ると、ニヤニヤ笑い腹部に耳を押し当てる。 「ちょ、何したんだよ」 「今度は、意識のある時にしてあげる」  愉しそうに笑う桑嶋の唇に意趣返しのように統久は軽く口付けるとニヤッと笑い返し、 「なあ、セルジュ。……はやくオマエの子供が欲しい」  誘うように腕を絡みつけられて、桑嶋は受けてたつとばかりに再び彼に伸し掛かった。

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