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第14話

 体育の授業が終わると、東雲が見学席に近づいてきた。本気で生徒と一緒になって運動するから、東雲は大汗だ。一定の距離を空けて、足を止めると明夏の頬に触れた。 「顔色が良くなってる」 「あ……うん」 「良かった」 (胸のつかえが一つとれたから)  ホッとしようにほほ笑んだように見えた。 「東雲先生の言葉足らずのせいだったから。こういうのは部外者から聞かされるのが一番、嫌なんだから。前もって話といてよ」  ムッとした顔の南野が東雲の肩を叩いてから、離れていく。授業は終わったし、教室にかえるのだろう。 「言葉……足らず?」 「えっと……あとで、話すよ」 「あとで?」  今は駄目なの? という表情に、明夏が苦笑する。 「ここ学校だから」 「……わかった」  明夏は東雲にジャージの上着を渡そうと手を出した。受け取ろうと東雲の腕が動いたところで、「東雲先生」と言いながら小走りで体育館に入ってくる小柄な女性に目がいった。 (あ……婚約者……)  まだ全てが解決したわけじゃない……と現実を突きつけられた気がした。一瞬だけ喜んだ罰が当たった。 (そうだ……ぼくだけじゃないんだ)  南野がいとこだとわかってホッとしたのもつかの間……深い闇に突き落とされたような気がした。  酷い眩暈が襲ってくる。 「せんせっ……」と明夏は目の前にいる東雲の腕を掴んだ。 「明夏?」  近くにいる東雲の声が遠くに聞こえた。世界がぐにゃりと歪み、足の力が抜けるのがわかった。 「あすなっ!」 (先生……たすけっ……)  スッと何かがシャットダウンした。さらにまわりの音が遠くになり、意識が飛んだ。 (ああ、気持ち悪い)  重い瞼を持ち上げると、見慣れない天井が目に入り、端っこに黒い物体が見えた。 「起きたか?」  低い喉仏にかかる声がして、ぎくっとなぜ肩がびくついた。 「し、東雲……先生?」 「ちょっと待ってろ」  握っていた手をスッと放すと、閉めていたカーテンを開けた。  繋がれていた手を見つめた。しっとりと手が濡れている。明夏はすこし寒気がするくらい身体が冷えている感覚がある。反対の手は、汗をかいていない……なら、手汗をかいていたのは東雲のほうなのか。 「柊木先生、西森が起きました」   東雲が立ち上がって、カーテンから顔を出して保険医の柊木雪に声をかけた。 (婚約者の……?) 「良かった! 目が覚めて」  シフォンの柔らかいスカートが目に入る。ふわっとした雰囲気の柊木を見たくなくて、「もう……平気だから」と勢いよく身体を起こした。  世界が一気に歪む。胃のムカつきが酷くて、「うっ」と湧き起こる吐き気に慌てて口に手を押さえたが……間に合わなかった分が制服にかかった。 「西森!」と目を見開いた東雲が肩を抱きしめてくれた。ひどく心配しているように見えるけど、いいのだろうか。  すぐ後ろには婚約者がいるのに。 「だ、大丈夫です、から」  口の中で押しとどめたものをごくっと飲み込んで、さらに気持ち悪くなる。

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