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3、「危険な蓮」

 その後、読書に火がついて、どうやらそのまま眠っていたらしい。  目を覚ますと、窓の外はすっかり夜になっていた。暖炉が燃えていて、暖かい。  長く伸びた影。それを目で追うと、近くの揺り椅子で、ノアがうたた寝をしていた。 (自室に戻れと言ったのに)  フランはベッドから降りて、自分が使っていた毛布をそっとかけてやった。  起きる気配はない。ノアは静かな寝息を立て、すやすやと眠っている。  夜毎、どこかへフラリと消えていく弟が、この時間に家にいるとは珍しい。明日は雨か、はたまた嵐か。  目の下に影を作っている、長いまつ毛を指で弾いてやった。瞬間、手を掴まれる。 「ひとのカオで遊んでるんじゃねえよ」  目蓋を閉じたまま、ノアが答えた。 「起きてたんですか」 「起きてたよ。ずっとな」  フランが、わざと大きな溜め息を吐いて、近くの床にぺたりと座る。ノアがすかさず席を譲ろうと、立ち上がる素振りを見せたが、首を横に振って断った。 「さっきの質問に戻りますが、いつも何処に行ってるんです? いい加減に白状しなさい」 「だから野暮用だって」 「具体的な内容を訊いているんです」  その剣幕に根負けしてノアが、かなわねえな、と白旗を上げる。 「まあ、兄さんには言っておくべきか」  そう言って紡ぎ出された言葉は、にわかには信じがたいものだった。 「──父さんが、に手を出した」  えっ、と、気の抜けた声が出た。  (はす)とは、主に貧民街で流通している錠剤の違法薬物(ドラッグ)だ。ひと粒で、空を飛んでいるような高揚感を得るのだという。  安価で手に入り、軒並み依存性が高いらしい。蓮に関しては、警察関係者が、今最も警鐘を鳴らしている案件だと耳にしたことがある。 「何を言い出すかと思えば!」  冗談でしょう、と笑ってみせたが、ノアの表情は変わらなかった。  元からの軽薄さはあるものの、彼が面白半分で、家族の評判を下げるようなことを言うはずがない。 「俺が初めてその現場を見たのは、半年ほど前だ。夜中に、馬車も使わず屋敷を出ていく父さんを不思議に思って、こっそり後をつけた。父さんは街の路地裏に徒歩で向かって──刺青だらけの怪しい男と、何やら取り引きしてたんだ。父さんは金を渡して、男から紙袋を受け取った。……次の日、父さんの部屋でクスリを見つけた」  半年前、といえば、ノアが夜遊びを始めた頃だ。思い返せば、父の様子がおかしくなった時期とも一致する。 「だからといって、そんな突拍子もない話……」 「俺は、あの夜父さんに蓮を売っていた男を探しているんだ。信じられねぇなら、ついてくればいい。一人より二人の方が心強いしな」 「かえって、目立ってしまうのでは?」 「大丈夫。それに、兄さんだってこのままにしておけねぇだろ?」  何を以って大丈夫、なのかは分からなかったが、フランは頷くしかなかった。

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