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第11話 蜜月(ハニームーン)は薔薇の花びらを添えて11

「どうしてこうなったのだ……」  風呂上がりのローブ姿のインヴァネス侯爵は、愛する番の片割れにより部屋を締め出され、廊下で途方に暮れていた。  性行為に始まり、アフタヌーンティー、風呂の世話……ミリアムへの対応は完璧だったはずである。 それだのに、ミリアムはドアの向こうで泣いており、インヴァネス侯爵は情けない姿を、使用人たちに見られはしないかとひやひやしている。 「――ミリアム……」  インヴァネス侯爵は、自身のΩの名を切なく呼び(すが)った。  ――時計の針を巻き戻す…… 浴室に向かう前、インヴァネス侯爵は女中(メイド)にベッドメイキングを申し付けていた。  整えられたベッドは、蜜月(ハニームーン)の新婚夫婦の閨らしく、仕上げに薄紅色の花びらが散らされてあった。 粋な心遣いにインヴァネス侯爵は淡く微笑みを浮かべたが、それきりミリアムの機嫌は急下降して、悲痛な様で泣き出し、仕舞いにはインヴァネス侯爵は部屋から追い出されてしまったのだった。  恐らくドアには鍵が掛かっておらず、もし、鍵が掛かっていたとしても、αの怪力を以てすれば、造作ない。 それでもインヴァネス侯爵は、自発的にミリアムにドアを開けて欲しかった。 「愛しのミリアムよ……お前が独りきりで泣いていると思うと、この胸は哀しみで張り裂けそうだ……お前はどうして泣いている?」 「――おれがどうして悲しんでいるのか、わからないの?」  インヴァネス侯爵の哀切なる口調にも怯まず、ミリアムは刺々しく言い放つ。 悲しんでいるだけでなく、怒りも含んでいるのか、ドアから漏れ出るフェロモンは、苦味を感じるような常とは異なる香りがする。  ――まずい。ミリアムが、何に臍を曲げているのか、さっぱり見当が付かない。 このままでは、わたしはずっと締め出されたままだぞ。  それまでどこか、普段とは違うミリアムの様子を面白がっている節のあったインヴァネス侯爵は、芝居めいた言動を改め、心からの言葉を発した。 「――すまない……ミリアム。わたしの何が、お前をそんなにも悲しませてしまったのだろうか?わたしにはわからないのだ……この愚かなαを憐れんで、教えてもらえないだろうか?」  爵位も、優位αであることも、年齢も関係なかった。 今のインヴァネス侯爵は、唯一無二の 運命 のΩに恋狂い、愛に迷う愚かな一人の男だった。  ドアの向こうからは、怒鳴り声が返ってきた。 「――おれが作った巣、壊しちゃったでしょ! 初めて作った巣だったのに!巣を壊したら、赤ちゃんが来てくれないじゃない!!」

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