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 吐く息が白い  夏の庭はすっかり寂しくなり 見上げた菩提樹の枝の向こうに寂しげな月が見え隠れする  満月には僅かに届かない其の月明かりに ぼんやりと立ち尽くす翠也は闇に消えてしまいそうだった  さり  土を鳴らす音に 翠也がゆるりと首を巡らす  髪で出来た影が表情を隠し 幽鬼の様にも見えた  取り殺してくれないだろうかと 朧気に願う 「寒いのに 中に入らないのかい、 又 調子が良くないとみつ子さんが云って居たよ、」 「 月を 見ていました」 「そう 満月と言う訳でも無いのだから 早く入った方が良い」 「御用向きでも、」  寒い中 部屋に居ない翠也を心配して探していた等とは云えない 「否 偶然見掛けただけだよ」 「   そうですか」  伏せた睫毛に濃い影が落ち 窶れて見えた  此れ以上は と背を向けて歩き出す 「卯太朗さん」  止まってはいけないと思いながらも 其の声に足が縫い止められた  さり  近付く足音から逃げ様と思うも 足は一寸も動かない

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