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第4話:俺だって傷つくんだよ

2人が店に来た次の日、バイトを終え店の外へ出ると、加賀さんが待ち構えていた。 「よっ! 今日は終わんの早いんだな」 余程スカジャンが好きなのか、今日はエメラルドグリーンのものを着ている。なかなか派手だと思うけど、とても垢抜けて見えるのは加賀さんのセンスが良いからなんだろう。 「早番だったので……ていうか、なんでいるんですか」 「覗いたらいたから待ってた」 「何か用ですか? あっ、昨日のお金返します」 「こっちこっち。金はいらん」 「え?」 加賀さんは俺の問いかけに答えず、手招きをした。路肩に停められたバイクが目に入る。 「加賀さんバイク乗るんですか?」 「そ、カッコいいっしょ? これ被って、後ろ乗 って。昨日さ、何があったか聞きたそうだった じゃん」 そう言われ、ヘルメットを渡される。 確かに、昨日振られたはず加賀さんが振ったはずの辻さんといたことは気になる。 「まぁ、気になりますけど……そういうのして いいんですか」 「いいの、いいの」 バイクの二人乗りなんてものを、人生で経験する日が来るとは。ヘルメットを被り、加賀さんの後ろにまたがる。手のやり場に困ったけど、後ろにグリップのようなもの見つけ、それを握った。 「いや、舐めてる? 腰掴んでくれ」 「えぇ……? こうですか?」 照れくさくてスカジャンの裾をつまむと、「照れ屋か! ガシッと掴まねぇと事故るぞ」と言われたので、大人しく腰に掴まった。 * 「き、気持ちよかった……!」 「わはは! だろ? バイクって気持ちいんだよな ぁ」 初体験のバイクは想像以上に爽快だった。夕日が落ちる瞬間とか夜の風を体で切る感覚とか、見慣れた景色が特別に感じられた。 近所にある高台までやってきて、コンビニで買ったコーラで乾杯する。街が一望できるベンチに腰掛けると、目の前は星空だった。 「俺な、父親が関西の人やねん。たまに訛りが うつってまうねん」 「はぁ……そうなんすね」 「まぁな。ところで、今の話は嘘やねん。親 父、バリバリ東京人なんやけど、どお? 騙され た?」 加賀さんはとてもよく喋る。 俺はというと、加賀さんの、屈託がなくて誰からも好かれるようなところが、少し嫌だと思ってしまった。 自分が酷くつまらなく思えてくるから、明るい人は苦手だ。決して交わらないタイプの人と、俺は交わってしまったのだ。 「ごめんサムいな。いや別に真面目に話すこと もないんだけど、なんか筧さんって、すごい話 しやすくてさ〜」 「……深月でいいですよ」 「おっ、マジで? じゃあ俺も凛太郎でいいよ」 「いや、加賀さんは加賀さんで」 俺達は「加賀さん」「筧さん」と呼び合うくらいには、ちゃんと他人だった。それを自ら壊すなんて、友達になりましょうと言っているようなものかもしれないけど、それでもいいと思った。 これからされる話は、友達にならないと聞いてはいけない気がしたから。 「加賀さん、振られたっていうのは嘘だったんですか?」 「んーや、嘘じゃない。むしろ俺が嘘つかれ た」 加賀さんはニコニコと笑いながら話し始めた。 「俺、あの日結婚式の帰りだったんだよ。高校 のダチがデキ婚してさ。二次会すっぽかして辻 の家行ったの。いやー、なんか知らねぇけど機 嫌悪くてさ。『加賀はどうせ、俺と一生一緒に いるつもりなんてないんだから別れよ』とか言 ってきて」 「おぉ……辻さんってそんな感じなんですね。 めちゃくちゃ穏やかな人だと思ってましたけ ど」 「全然穏やかじゃねーよ。物に当たるわ情緒不 安定だわ」 俺の中の辻さんのイメージがどんどん崩れていく。気持ちの浮き沈みなんてなさそうな人なのに、加賀さんには素を出しているのか。 「えーと、それで……?」 「そんで次の日の朝……深月と飲みに行って解散した後だな。泣いて謝られた。なんで泣くんだろうなぁ。不安に思うことなんて、何ひとつねーのに」 加賀さんは優しい笑みを浮かべているけど、どこか遠い目をしていた。 「加賀さんはなんて答えたんですか?」 「え、考えさせて、って。俺は物じゃねーし、 お前の思い通りになると思うな、俺だって傷付 くんだよって言った」 「そ、そしたら?」 「もっと泣いた。あはは」 今度は楽しそうに笑った。加賀さんって、本当はとても怖い人なのかもしれない。 話を聞くと、辻さんは3年前に両親を事故で亡くしているらしい。その当時のことを加賀さんは詳しく話してくれたけど、辻さんの痛々しい姿が伝わってきて正直途中から聞きたくなかった。 その頃にちょうど加賀さんがバイクの免許を取って1年たったので、とにかくいろんな所へ連れて行ったという。 そして最近、気づいたら付き合っていたらしい。 「気づいたら? ってどういうことですか?」 「え、うーん。辻が好きだって言うから。じゃ あ付き合うかーって」 「へぇ、辻さんが……」 しかし、付き合った途端に辻さんは変わってしまった。依存や束縛が強くなり、友達が多い加賀さんはとても苦労したそうだ。そして何より、辻さんがどんどん攻撃的になっていったという。 よりを戻すかどうかは、まだ保留中らしい。 「なんでこうなっちまったんだろうな」 そう言った加賀さんの声が儚くて、妙に胸がざわついた。 「……なんか偉いっすね。俺だったら逃げてますよ」 「や、逃げるとかじゃねーのよ。俺も好きだしさ。好きなんだけど〜みてーな。多分さ、付き合わない方がよかったかもしれねぇ」 正直、意味がわからなかった。嫌なら嫌だとはっきり言えばいいし、好きなら一緒にいればいい。 てっきり辻さんへの同情で付き合っているのかと思ったけど、そうではなくちゃんと好きなら、何を迷うことがあるんだろう。 「あ、くだらねーって思ってんだろ」 「……いや、くだらないっていうかよくわからないです。俺はそういう気持ちにならないので」 「深月、深月、オール・ユー・ニード・イズ・ラブだぜ」 「どういう意味ですか? 日本語でお願いします」 俺がそう問いかけると、加賀さんはニヤッと笑った。とても不敵な笑みだった。 「愛こそすべて!」

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