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キミの熱に、焦がされる。 【5】

「――そろそろ終わりか」 「ん……あ、キャンプファイヤー? もう、終わっちまうの?」  永遠に続くのかとさえ思えた、長く濃厚な口づけの時間。それは、窓の外を見た土岐の呟きで終わりを迎えた。  アンダーリムの眼鏡が向いた先を辿り、中夜祭の行事がそろそろ終了することを俺も知る。 「そういえば俺、お前と一緒に見たかったんだよなー、あれ。もったいないことしたなぁ」  グラウンドから途切れ途切れに聞こえてくるキャンプファイヤーの終了を告げるアナウンスに、ちょっとだけ惜しい気持ちを漏らしてみる。 「来年、一緒に見ればいいだろ? そのまた次も」 「……っ、うん……うん!」  最後の輝きを空に向けて伸ばしてる炎を惜しむ俺に、隣に並んだ土岐から『これから先も一緒』だと告げる言葉がかけられ、落ちかけていた気分が一気に浮上した。 「そうだよな。来年が楽しみだよ、俺っ」  浮上しただけじゃない。当たり前のように『来年も一緒』と言ってくれたことで、言葉に言い尽くせないほどの歓喜に包まれる。  信じらんない。キャンプファイヤーが始まった時の最悪な気分とは、雲泥の差だよ。  それにさ、キャンプファイヤーを見られなかった理由はさ! キス! してたから、じゃん?  土岐と! ずっと! つい、さっきまで! うっひゃー、堪んねぇ! 「だが、来年の前に後夜祭の花火だな。明日も、こうしながら見ようか」 「あ……んっ」  甘く口づけながらの、明日の約束。これもまた、堪んない。 「あ、そういえば、なんで俺があの部室に居ること、わかったん?」  『そろそろ出よう』と土岐に促され、演劇部の部室を後にした。部室の鍵を返すべく職員室に向かう途中で、不思議に思っていたことを聞いてみる。  俺が居た演劇部の部室は、他の文化部とは違って式典用のホール棟の上階にあるから、ピンポイントで探し当てるのは難しい場所のはず。  それか、ものすごくあちこち探し回ってくれたんだろうか。実際、部室に現れた土岐は、少し息が上がってたし。 「……窓が開いてたから」 「へ? それだけ?」 「探してる途中、下から髪が見えた。それだけだ」 「土岐ぃ」  髪が見えた、それだけ――。ざっくりしたこの言葉に込められた意味に、胸が熱くなる。  だって……だってさ。演劇部の部室は三階にあるんだぜ?  しかも俺、窓からキャンプファイヤー見てたけどさ。窓枠に手ぇかけてコッソリ見てたから、頭を乗り出したりとかしてたわけじゃねぇんだよ。もちろん、髪がなびくほどのロン毛でもねぇ。  けど、土岐は俺がそこに居るって気づいた。  闇の中でも、気づいてくれた。  俺を、ちゃんと見つけてくれたんだ。 「なぁ。それだけで、気づいてくれたん? ほんの少し、髪が見えただけなのに?」  聞き返す必要はないけど、つい聞いてしまった。嬉しさのあまり。 「そりゃ、わかる。お前のことは、ずっと見てたし――――綺麗だからな、お前の髪色。アッシュグレージュっていうんだろ? 中庭の照明だけでも、充分にお前だと認識できた」  前髪に、そっと指が触れた。そのまま耳の後ろまでを撫でつけるように梳き流す指の動きが、とても優しい。 「これを、あの人に触らせたくなんてなかったから、あんな馬鹿馬鹿しいコンテストにだって出たんだぞ」 「へっ?」 「軍服のあのイベントだ。お前、見に来てたろ? 見えてたぞ、ステージから。しかも、終わったらお前からのメッセージを既読スルーした理由を話そうと思ってたのに急に居なくなるし。だから、慌てて探した」 「えっ? えぇっ?」  見えてた? 俺、グラウンドの端に居たのに? てゆうかメッセージのこともだけど、その前に『あの人』がどうとかって、何?  けど、まずはこれから聞いとく? 「そうだ! 『仮想で妄想☆仮装コンテスト』! なんで、あんなん出てたんだよ。お前、ああいうの、めちゃ苦手じゃんか」 「今、言ったろう? わかりやすく説明すると、あのコンテストのバスケ部代表、もとは花宮先輩とお前だったんだ」 「えっ、俺と宮さまがっ?」 「キャプテンが指名したのは、当初、花宮先輩だけだった。が、あの先輩、こともあろうに『武田とふたりでなら、やってもいい』なんて余計なことを言い出して……そうしたら、その案に何故か乗り気になったキャプテンによって、あんなBL風の演出が決まってな」  うわぁ……。 「お前の髪や身体をあの人に触らせるわけにはいかないからな。俺が強引に割り込んで立候補する羽目になったわけだ。武田は実行委員で忙しいからコンテスト参加は無理だと、ごり押しして」 「土岐……」  なんつうか……胸がいっぱいで、上手く喋れねぇよ。  俺の知らないところでやり取りされてたことの種明かしを聞かされて、息苦しいくらい胸が熱い。  俺ってば、もしかして、ものすごーく好かれてるし大事にされてる? もしかして、だけど!

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