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Truth -side Kanato- 【3】

 自分の口元が、くっと引き上がり、ニヤリと笑みを形作ったのがわかった。 「気持ちいいなら、もっと可愛がってやろうな?」  ここと見定めた場所に置いた中指。その指の腹で、ゆっくりと円を描いてなぞっていく。  起こさないように。あくまで、タッチは軽く。ちゃんと自制する。なぜなら――。 「……ん……っ」  武田の反応が、可愛いから。  時折、ぴくんと身体を跳ねさせ、それでも眠りから覚めることはない相手の口元から漏れ出る声が、あまりにも俺のツボだから。  俺の指に身を委ね、可愛らしい声を聞かせ続けてくれるコイツを心の底から愛おしいと思えるから。 「あぁ、固くなってきた」  その結果、ぷっくりと膨れた胸の粒がユニフォームを押し上げて立ち上がってるさまが堪らなく淫靡で、いつまでも眺めていたいから。  限りある時間の中で、この状況を少しでも長引かせたい。  だから、固くしこった胸の粒をくにくにと弄るけれど、甘い吐息を漏らす口元には、そっと唇を乗せるだけで我慢だ。  うっかり舌なんて差し入れたら、さすがのコイツでも起きてしまうだろ? 「ぁ……ん……土岐ぃ」  ん? 「もっと、欲し……」 ――どくんっ! 「おまっ……起きて……っ?」 「……アイスぅ……もっとぉ……んん」 「……」 「もっとぉぉ」  わかった。後で、嫌というほどその口にねじ込んでやる。アイスバー、十本でいいか?  というか、左右の胸をこんなになるまで弄られてるのに、まだ寝言が言えるとは。お前、どこまで鈍感なんだ? 「いや、感度が良すぎるのか?」  いったい、どっち……うん、両方だと思うことにしておこう。  それで、もっと弄ってやることにしよう。今、無駄にドキドキしたぶん、もう少し楽しませてもらおう。  そう思い、少しだけ大胆な行動に移ることにした。  遠慮してユニフォーム越しにしか触れていなかった粒に直接触れるべく、胸元に手を差し入れたんだ。 ――カチャッ 「あ……」  しまった。遠慮したままにしておけば良かった。突然、部室のドアが開いたのだから。 「……チッ」  しくじった。誰も来ないと思って、鍵をかけていなかった。  なんて思っても、もう遅い。 「まだ残ってたのか」  が、素早く胸元から手を抜き、素知らぬフリで突然の闖入者に声をかける。 「あぁ、お前らもか」  俺の問いに普段と変わらないトーンで返してきた相手は、表情も普段通り。  コイツがドアを開けてそこから顔を覗かせた瞬間よりも、俺が武田の胸元から手を引き抜いた瞬間のほうが、確実に早かった。だから、現場は見られてはいない。見られてはいないが……。 「じゃ、またな、土岐――――あと、ごゆっくり」 「……ひと言多いぞ、一色《いっしき》」  隣り合った二箇所のロッカーから荷物を出して手早く纏め、片方の肩にバッグをふたつ掛けた一色基矢《いっしき もとや》が、淡々とした表情で最後につけ加えた『ごゆっくり』。  その意味が嫌というほどわかるから、また舌打ちが漏れ出た。  愛撫の瞬間は見られてないが、がっつり添い寝してるんだ。バレバレだ。  だが、一色で良かった。というか一色、お前も随分な『ごゆっくり』じゃないか。ふたりぶんの荷物を取りにきたってことは、高階《たかしな》と一緒なんだろう?  おまけに、俺らと同じようにまだユニフォーム姿ってことは……推して知るべし、というヤツだ。 「まぁ、いい。人の詮索をしてる場合じゃない」  部室にオレンジ色の光を届けていた太陽も次第にその色を変え、窓の外には夕闇がおりてきている。  そろそろ下校時間だ。自ら、このひと時に区切りをつけ、幕を下ろさなければ。 「武田?」  さらりと柔い前髪に指を差し入れ、普段は隠れている額を露わにする。  不思議だ。こうして目を閉じていると、秀麗な面立ちは物静かな印象さえ与えてくる。  これが、ひとたび目を開け、声を発せば、くるくると変わる表情が愛らしい、明るいチャラ男になるんだからな。  が、武田はただのチャラ男じゃない。地道なトレーニングを欠かさず、自分を高めるための勉強を厭わない真面目な一面もある。コイツの表面だけを見てるヤツには、決してわからない部分だ。  ギャップ差にも、ほどがある。だからこそ、惹きつけられてやまない。  露わにした額をそっと撫で、そこに唇を寄せた。 「おい。今から俺が言うこと、ちゃんと聞けよ?」  額に口づけながら、起こさないギリギリの声量で告げていく。 「今夜、俺の夢を見ろ」  唇を触れ合わせ、皮膚から俺の言葉が染み込むように、ゆっくりと。 「そして、俺に触れられたことを思い出せ。いいか? こうして、こんな風に触れられたことだぞ?」  言いながら、その感覚が武田の脳内に伝わるように、立ち上がっている胸の粒をくるんと撫で回してやった。 「俺もお前の夢を見るから。俺にこうされたことを決して忘れるな。いいな?」  名残惜しい。けれど、もう唇には触れない。この額へのキスで終わりにする。  その代わり、明日の朝、お前が自主練に現れたら、一番にこの額に触れるぞ。  ちゃんと俺の言いつけ通りに夢を見たか、確認するからな。  お前の頬の色と、表情で。  次にお前に触れる時は、誰よりも俺がお前に近づいた時だ。  それは、そう遠くない未来。  なぜなら、これから本気でお前の心に食い込んでいくつもりだからだ。  が、まずその前に、このピンと立ち上がった胸の粒を、目覚めたお前がどう感じ、対応するのかをじっくりと眺めさせてもらおう。  もしも、“つい、うっかり”俺の手や身体がソコに擦れることがあっても恨むなよ? ふふっ……ふふふっ……。 『……へへっ、だぁい好きっ……俺の土岐いぃ……』  さっき聞いた武田の寝言を脳内でリピートし、もう一度、口元に不敵な笑みを乗せる。  もう、決めた。お前に憧れの存在がどれだけいようとも、お前の一番近くにいるのは、この俺だ。  可愛い慎吾――――お前の『大好き』は、誰にも譲らない。  お前は、俺だけのものだ。 「――おい武田、いつまで寝てる。起きろ。三秒以内に起きたらアイスを食わせてやるぞ。試合で頑張った褒美だ」 「……う、ん……アイスぅぅ……ん? えっ、アイスって言った? マジっ? 武田慎吾、この通り、シャキッと目覚めましたーっ!」

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