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 学生たちが目を丸くして、セシルの姿を見る。視線を感じて居心地が悪かったが、セシルは気にしないように努めた。  それに、彼らの関心の的は自分ではない。自分の後ろに着いて歩いている獣だ。 「ねえ、見てよ、あれ……」 「あいつが連れてるのって……」  ひそひそ話がひっきりなしに聞こえてくるが、セシルは無視を貫いた。こういう時は兄のエルムを見習うことにしている。  クールに、無表情に……。  が、それが続いたのは教室に入るまでだった。 「おいおい! そりゃ何だ?」  扉をくぐるや否や、そんな声が飛んでくる。  にやにや笑いでこちらを見ているのは、ティハと取り巻きたちだった。 「『能無し』。ここはペットの連れこみは禁止だぞ?」  その発言で教室全体がどっと沸いた。  セシルは無視して机に向かおうとするが、ティハが体ごと割りこんでそれを阻止する。 「妖魔(ジン)と契約ができないからって、とうとう代わりに犬でも飼い始めたのか?」 「ティハさん、ちがいますよ!」  と、取り巻きの少年が追従するように言う。 「あれは、あいつの妖魔、【ダイアウルフ】です」 「何? 妖魔だって!? 俺はてっきり犬だと思ったぜ!」  大仰な動作でティハが驚いてみせると、学生たちは更に笑い転げる。  目の前に立ちはだかる少年をセシルは睨みつけた。 「どけ。通れない」 「どうした? 言い返すこともできないのか? そりゃそうだろうな。自分の妖魔が低能な『ビースト』だなんて、俺だったら恥ずかしすぎて、人前に出れやしないぜ」  自分のことはともかくとして、レヴィンのことまで馬鹿にされ、セシルはカッとなった。 「ちがう! こいつは他の『ビースト』とはちがう。ちゃんと人の言葉も理解できるんだ」 「へええ……この犬っころがねえ」  ティハはにやにやと笑いながら、視線を足元へと向ける。  セシルもそちらを向いて――絶句した。  レヴィンが自分の尻尾を追いかけて、その場で回っている。  足を滑らせて、すてーんと転んだ。仰向けになると、ふわふわのお腹が丸見えとなる。うまく起き上がれないのか、短い足をじたばたとさせて――  ティハが盛大に吹き出した。 「ただの馬鹿な犬っころじゃねーか!」 「『人の言葉が理解できる』!? もしかして、わんちゃんと会話ができるんですかー、セシルくんってば!」 「可哀想なこと言ってやるなよ! 『能無し』セシルには、他に話してくれる友達なんかいねーんだからさ」 「わんこだけが唯一の話し相手ってか!? 切ねえなあ!」  セシルは自分の拳を握りしめた。レヴィンに鋭い視線を向ける。 (こいつ……! わざと……!)  視線の先では、レヴィンがようやく上体を回転させ、起き上がることに成功している。目が合うと「きゅうん?」と無垢な眼差しで首を傾げる。  セシルは屈辱と怒りで、肌に食いこむほどに強く手を握った。  レヴィンはわざと犬のふりをしているのだ。セシルに恥をかかせるためだけに、わざと。  何て意地が悪いのだろう。どれだけ根性ねじ曲がっているのだろう。  セシルは憤慨しながら、目を細める。 (やっぱり最低だ、こいつ……!)  軽蔑しきった眼差しで子狼を見やるのだった。

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