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3話 うさぎたちの昼と夜(入れ子構造)

 主人公は……そうだな……探偵をしている少年とかどうだ。いや、少年ってなんなんだ探偵やれんのか。まあいいや。でな、うさぎが大好きなんだよ。馬鹿でかいフレミッシュジャイアントと暮らしてて……寝る時は一緒にもふもふと寝るんだよ。なんだよそれ最&高。タイトルは『うさぎたちの昼と夜』。よし決定。  文雄は頭の中でかちゃかちゃとストーリーを組み立て始める。白いパズルに挑戦しているような感覚。無から有を生み出す快楽。どうして書くのをやめていたんだろう。こんなにも楽しい作業であるのに。    ◇ ◇ ◇   「これは難事件の予感」  すっかり荒らされたレストランの店内で、少年はタータンチェックのハンチング帽をきゅっと持ち上げ、唇の端を曲げてみた。 「だけど僕が居合わせたからには、必ずや解決いたします」 「いやいや何を言ってるんだ。坊や、おうちはどこだい。お母さんのところへお帰り。名探偵ドイルの見過ぎじゃないかい?」  年齢で判断されたことにむっとした少年は、店主に少しだけ鋭い視線を向けたが、やがて笑顔を見せた。 「そう、僕は名探偵! 必ずやこの事件を解決いたします」 「いいからお帰り」  ぽいっと店から放り出された少年は、とりあえず現場周辺を勝手に捜査することにした。家で待つ、巨大なフレミッシュジャイアントを脳裏に浮かべながら──      ◇ ◇ ◇  少年ゆえになかなか自由に動けない悲哀。荒らされたレストランで殺された店主。……ん、いや店主はさっき出てきただろ。店主が偽物か? あー……レストラン……の……  レストランという言葉に、ふと文雄は思いを馳せた。  本当は、ずっと働いていたかった。電機屋でも接客はあるが、やはり飲食業界とはまた別だ。機械弄りも楽しいが、違うものは違う。  目を開けて、天を仰いだ。水蒸気でもうもうと曇るサウナ室で無意識に唸っていたら、またしても視線を感じた。  すっかり到流の存在を忘れていた。 「……大丈夫だよ?」 「なんも言ってないっすよ」 「だよね……はは。俺ちょっと考えごとしてて、うるさかったのかなと思って」 「別に」  到流は特に興味もなさそうに呟いたが、ふと何かが気になったのか、立ち上がり、文雄の隣までやってきた。 「どうかしたの」  タオルを腰に巻いただけの、熱気で蒸された到流が、さも当然のように文雄の隣に座った為に若干戸惑う。 「いや、電機屋さん、名前は?」 「え? 中瀬だけど……中瀬文雄」 「これまでに、どっかで会いました?」 「……さあ? まあ、世の中狭いから、どこかで会ったことはあるかもしれないね」  じっと見てくる到流の視線が、なんとなく居たたまれない。近い。  文雄は長年の客商売で身につけたと言うよりも、元々人当たりが良くて誰とでも親しくすることが出来る。  実のことを白状するなら、それは人間観察(ヒューマンウォッチング)の一環なのだ。しばらく書くのをやめていたものの、以前ついた癖はなかなか抜けない。  それはそれとして、同性とは言え裸体でこうも接近されると少し困る。 「ん、まあいいっすよ。どこかで見た気がしただけで……気のせいかも……」 「ああ……えーと、俺、そろそろ出るよ」 「え、じゃあこのあと一緒に飯でも食いません?」 「は……」  何故こんなにぐいぐい来られるのか文雄にはわからなかったが、新鮮な人材は何かネタになるかも知れないので、とりあえず頷いた。

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