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第9話

 翌日の早朝、バーディンはダンと共に少し小高い丘から海を見下ろしていた。二十人前後の兵士たちが懸命に泳ぐ姿を眺める。親衛隊の訓練は日の出と共に始まり、激しいものである。  バーディンとダンは朝のすでに終え、部下たちが訓練を終えるのを待っていた。  昨日は一睡もできなかった。リオラムに散々弄られた乳首はまだ少し痛むが、見た目にさほど影響がなかったのが不幸中の幸いである。  それでも海での訓練が終わったらすぐにシャツを着込む程度には気にしている。バーディンは思い切って隣の親友に尋ねてみた。 「……なあ、ダン。俺の乳首って変か?」 「ええ? なんだよ急に」 「リオラム様に変だと言われた」 「お前、王子の前で脱いだのか?」 「いや……、それは……色々あって……。その、乳首が変だから治してくれると……」  流石に親友相手でも昨日の出来事を正直に話す気にはなれない。しかし口ごもるバーディンにダンは何か感づいたようだった。 「そうおっしゃってるなら、治してもらえよ」 「しかしこんなことでリオラム様のお手を煩わせるのは……」 「煩わせろ、煩わせろ! 王子の亡霊を追うよりはるかに健康的だ」  ダンの言い草に驚いて周りを見回す。幸いこちらを気にする者はいない。彼の言葉は乱暴だが一理あるような気がする。バーディンは腕を組み、隣の乳首を見つめた。 「ふむ……、そんなに乳頭が出ている方がいいのか」 「お、俺の乳首をまじまじ見るなぁ!」  ダンはそう叫ぶと乙女のように両手をクロスさせて胸を隠した。  * * *  バーディンがリオラムと落ち着いて話ができたのはそれから一週間が過ぎてのことだった。警護が終わったあと、リオラムの寝室への呼び出しがあった。  扉をくぐると一人がけのソファに腰掛けるリオラムの姿があった。バーディンは立膝になって先日の非礼を詫びた。 「先日は申し訳ありませんでした」 「私の方こそ、君にみっともない姿を見せてしまった。君にお詫びがしたい」  みっともない姿を見せたのはこちらの方だというのにやはり彼は紳士だ。  リオラムの手招きに導かれ、近づくと傍のテーブルの上に不思議な小物を置いた。それは透明で半円のカップをひっくり返したような形である。円の頂点には摘みのような器具が付いている。同じ物がもう一つ並べられる。見たことのない小物にバーディンは小首を傾げた。 「これは?」 「中に入りこんでしまった乳首を吸い出す器具だ」  リオラムは腕の上にガラスの器具を乗せると摘みを捻った。すると中が真空になり、ガラスの中の彼の腕が吸い上げられるように膨らんだ。その様子に先日の痴態を思い出してしまう。 「そ、そんな破廉恥な物……!」 「破廉恥? ただの器具だろう。必要ないなら無理強いはさせないが」  バーディンは言葉を詰まらせた。  あれからというもののバーディンはなんとか自分で改善できないかと触ってみたが、全然うまくいかない。少し顔が出てきたと思ってもすぐに元に戻ってしまう。固定する器具あるなら、はっきり言って喉から手が出るほど欲しい。 「……い、いります……」 「そうか。では使うから、早速脱ぎなさい」  当然のように言われてバーディンは固まった。嫌な汗が背中に伝わるのを感じながら引きつった笑いを浮かべる。 「その……、口頭でおっしゃってくれれば、自分でできますので……」 「これは魔道具だぞ。君は魔法が使えないだろう」 「しかし、こんなことでリオラム様のお手を煩わせるわけには……」 「私に触れられるのは嫌か?」 「いえ、そういうわけでは……」

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