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身に着けたくない男の気持ち

 午後からの仕事の足がかりにしようと、午前中はお得意様にひたすら電話攻撃した榊。和臣と約束したので早く帰れるように次々と電話をかけて、数件お邪魔することを確約した。  昼時になったので、折れ線グラフや数字が映し出されたモニターがたくさん並ぶ無機質な職場からさっさと離脱し、会社の向かいにあるコーヒーショップに来店した。好きなメニューのひとつであるチョコレートの入ったスコーンやサンドイッチと一緒に、オススメのホットコーヒーをテイクアウトして戻った。  自分が仕事しているフロアで、使用していない会議室の扉を開けては閉めてを繰り返すこと数回の後に、一番奥にあった小さな会議室を陣取ることに成功した。榊と同じように引きこもりたい社員が大勢いるので、社内でお昼を食べるのも一苦労だったりする。  1人きりの時間を満喫しようと中に入り込んでしっかり鍵をかけてから、買ってきた物を長テーブルに置いていく。ついでに、和臣からご褒美だといただいたハンカチを広げてみた。  朝は寝起きの可愛いらしい和臣ばかり見ていたので、ハンカチを見たのはものの数秒だった。しかも反落すると思ったベビードールが反発するものになったせいで、ショックを隠しきれなかっただけじゃなく―― (臣たんにあんな顔して強請られたからって、ポチりそうだった俺もどうかしてる……)  卵サンドに口をつけながら朝の出来事を反芻していて、ふとそれに気がついた。広げたハンカチの右隅にプリントされたチワワと、なぜか目が合う。こっちにお尻を向けて尻尾を振っているだけでも愛らしいのに、満面の笑みで自分を見つめる顔と和臣の顔が見事に被った。  それはベッドで誘っているような錯覚に見えるものでヤバいと瞬間的に悟り、ハンカチを慌てて裏返す。似たような表情で和臣に朝から誘われたせいか、気持ちがどうにも落ち着かない。
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