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第15話 告白・1

■ 千早の2度目のヒートが終わって10日程過ぎた頃には、夏はいよいよ本格的になり、〝真夏〟と言える季節になった。 アスファルトには陽炎が揺らぎ、道を行き交う人々は皆、タンクトップか半袖で、しきりに汗を拭っている。 その暑さをさらに煽るように、蝉が狂い鳴いていた。 高斗と千早は、以前からヒート後に行こうと計画していた通り、南伊豆にある旅館が所有するプライベートビーチに来ていた。 「あっつ……今年の夏どうなってんだよ」 予想以上のビーチの日差しの強さに、高斗は思わずげんなりと呟いたが、その横で千早が嬉しそうに目を輝かせた。 「海だーーーっ!!」 いつも物静かな千早が叫ぶのは、初めて見たかもしれない。 白いパーカーに水着とビーチサンダル、それから麦わら帽子姿。 その健康的な夏の恰好が、千早には驚く程似合わなかったが、そこが可愛らしかった。 浜幅50メートル程の、まるで秘密の隠れ家のようなプライベートビーチだが、ホテルの経営する売店の一部が浜辺にあり、海の家の代わりになっている。 景観を損ねないレトロな造りの売店では、飲み物に浮き輪やシュノーケル等の貸し出しなど、なんでも用意が出来た。 そこで麦茶のペットボトルを調達すると、千早が浮き輪を貸してくださいと店主の年配の女性に声をかけていた。 オレンジ色の浮き輪を嬉しそうに腕に抱えている千早に、高斗は思わず聞いた。 「千早って泳げるのか?」 「泳げるように見えますか?」 妙に自信満々に千早は言った。 「プールの授業もほとんど見学でした。海は見るのも初めてです」 予想通りの答えだ。 「……了解。じゃあ基本浅瀬で、俺の傍を絶対に離れないように。溺れたら洒落にならないからな」 この浜の海は波が少なく、離岸流などの話も聞かないが、何が起こるか分からないのが海の怖いところだ。 そう教えると、千早はまるで物分かりの良い生徒のように「はい、気を付けます!」と返事をした。 「高斗さんは泳げるんですか?」 「一応泳げるけど、あんま泳いだことはないな」 「……なんとなく高斗さんは泳がないでビーチベッドに寝そべってるのが似合いますね。海外セレブの男性にこういう人いそうですもん」 千早は高斗のサングラス姿を見て「似合いすぎる」と笑いながら言った。それなりの期間一緒に暮らしているのに、なぜ千早の自分に対するイメージがいつまでも海外セレブなのかは本当に謎だ。 ひとまず荷物をビーチパラソルの下に置くと、千早はもう待ち切れないというようにパーカーを勢いよく脱いだ。 この暴力的な太陽の下では痛々しいぐらいに真っ白い肌が露わになる。 白い砂浜と海と、夏空をバックにしたその姿は絵画のように美しく、一瞬目を奪われたが、浮き輪を装着してそのまま海の中に駆けだそうとする千早を高斗は慌てて止めて、ビーチパラソルの下に引き戻した。 「日焼け止めちゃんと塗り直さないとダメだ。それかパーカー着たまま入れ」 「旅館で散々塗りましたよ? それに、ちょっとぐらい日焼けしたいんですが……」 海を一度も見たことがないという千早は、健康的な小麦肌になれるとでも思っているのだろう。 だが、絶対にそうはならないことを高斗は分かっていた。 「バカ。海の日差しを甘く見るとマジで痛い思いするぞ。お前は日焼けしたら俺みたいに黒くならずに絶対赤くなるタイプだ。そういう肌は、皮がズルッと剥けて下手したら水膨れになるぞ」 「えっ……」 千早は怯えた顔をして思わずと言った具合に自分の肌に触れた。 「ものすごく痛いぞ。温泉に入れなくなってもいいのか?」 「ぬ、塗り直します」 「ああ。日焼け止め、念のため3本買ってきた。俺が塗り残しがないように全身塗ってやる」 親切心から言ったが、密かに抱いていた下心が顔に滲みでていたのだろうか。 千早は高斗の手から日焼け止めを受け取ると、自分で塗ると言った。 「分かった。変なことをするのは諦めるから、じゃあせめて、背中だけ塗らせてくれ」 「……せめてってなんですか」 千早は訝し気に目を細めたが、さすがに背中は自分では手が届かないのか、高斗に任せてくれた。

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