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第10話
試合中、僕らはマネージャーの石本さんに預けられて、試合の手伝いをした。
……白今、見れなかった。
しくしく。
で、試合が終わると、後片付けや対戦校との挨拶とかを済ますと、優也は僕のところに来た。
「僕は自力で帰れるからって言って、抜けてきたよ。さ、春樹。お仕置きだよ」
カワイイラブホ?
高級ホテル?
ちょっと嫌だけど、公衆トイレかな……?
などと思いを巡らせている僕は、ドラッグストアに連れていかれた。
ああ、避妊具とか、買うんだ!
などと思っていると、優也は僕の腕を掴んだまま、コスメ売り場に直行。
口紅を見始めた。
「何してるの……?」
「何って、春樹に化粧する道具を見てる」
「化粧⁉」
「もちろん、可愛くお化粧するだけではお仕置きにならないから、記念撮影もさせてもらうよ。腕を組んで街を歩くのもしてもらう!」
「い、イヤだーー!」
「君、悪い子だよね? 家で良い子にしとくように言ったのに、勝手に来て、竹内に迷惑までかけたよね? 今度学校で会ったら、謝るんだよ?」
「うん……」
こうして、優也は僕の顔に化粧をする化粧品を選び始めた。
「ピンクの口紅が可愛いな。後はファンデーションか。アイメイクはよく分からないや」
優也は適当にピンクの口紅と、真っ白な粉タイプのファンデーションを選んで買った。
「じゃあ、トイレで化粧しようか」
公園のトイレに到着すると、僕は優也の体に自身の体を密着させた。
せっかく個室があるから、楽しんでいきたいよ。
僕達、若いんだよ?
「君、何してるの? 誘惑してるつもりなの? 残念だけど、僕は、自分で働いたお金で夜景がキレイなホテルを予約して、夢のような一夜を過ごすのが初体験って決めてるんだ。こんな場所、イヤだからね」
にっこりと笑って、僕にはなれるよう促す。
何だか、女の子みたいにロマンチックだな。
ところで、自分で働いたお金って、ナニ……?
まさか、僕達、大学を卒業するまで、何もナシ……?
ウソだろ……?
「えっと、ファンデーションが先で、口紅が後か。ベースメイクってなんだろう。アイメイクはしないからいいよね」
スマホを見て、ぶつぶつ呟きながら、優也は僕に化粧していった。
「春樹。言っとくけど、自分で上手に化粧できるようになって、僕を喜ばせようなんて思ったらダメだよ。僕が君に化粧するのが楽しみなんだから!」
言いながら化粧していき……。
「あれ? なんかおかしいな……」
僕は恐る恐る鏡を覗き込んだ。
鏡の中には、不自然な肌の色に、口裂け女みたいな口をした僕の顔が映った。
「なにコレ? おかしいよ、これ!? 化粧、落としてよ!」
「まあ、今回はこれで良いか。次回は妹にやり方を聞いておくよ。さ、腕を組んで歩こう?」
「イヤだ!」
トイレの中を逃げ回ったけど、僕は小動物のように捕獲されて、優也に腕を組まれて、俯きながら大学の近くまで戻った。
途中で、幼稚園児ぐらいの子供に指をさされたり、小学生の女の子にくすくす笑われて、地獄だった。
あれって何?
男同士のカップル?
しかも、片方口裂け女?
っと、女子高生にドン引きもされた。
くそう!
僕が小動物ような非力な存在でなければ……。
「もしもし。夕奈? 化粧ってどうやって落とすの?」
『……』
「分かった! クレンジングって言う、落とす道具があるんだね!」
学校の近くのコンビニで優也はクレンジングオイルを買って、学校のトイレで化粧を落とした。
それまでに何度も撮った写真を宝物のように愛しそうに眺める。
「ねえ、その写真!」
「分かってるよ。僕個人で楽しむから。これから毎日化粧の練習をしなくっちゃ。春樹を可愛くするんだ!」
地獄の日々の始まりだったーー。
こいつと付き合って……幸せだったのか……?
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