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第21話(優也視点)

 春樹の家に行く約束をした日、ダイニングにたっぷりとお菓子が用意されていて、僕は心の中でため息をついた。  僕が言いたい事を春樹は前もって、何も言ってないんだな。 「春樹君のお父さんにもお話をしたいんですが」 「ええ。春樹がそう言ってたから、部屋で仕事をしてます。今、呼んできます」  頭をソバージュにして、キノコのスリッパを履いた女の人は春樹にそっくりだが、彼のお母さんだ。  いくつだろう……?  想像していた以上に面倒な事になりそうだ。 「なんだね? 私は仕事の最中なのだが」 「では手短にお話ししますので、座って聞いていただけますか?」  春樹のお父さんと、お母さんが椅子に座る。向かい側に僕と春樹が腰かけた。 「春樹君が通院している病院の転院を考えています。もう転院先も決まっています。春樹君の転院を認めてあげてもらえないでしょうか?」 「君は何を言い出すんだ? 春樹は帝国病院の一番腕のいい医師に診てもらっている。転院など考えた事もない」  ああ、そこ、僕が滑り止めの大学を見るためにオープンキャンパスに参加して春樹に会うまでは本命だった大学の付属病院で、従兄(いとこ)はそこで研修を受けた。  まあ、これは黙っていよう。  W大の情報と偏差値が違いすぎて、胡散臭いと思われそうだから。 「ですが、医者と患者には相性があります。春樹君は、通院しても全く良くならないとか、ほとんど先生と話をしたことがないと聞いてます」 「素人に何が分かる⁉」 「転院先を探して、春樹君が病院に行ったところ、病気は心因性の可能性があると診断されました。脳波ももちろん調べました」 「私……私、一生懸命、春樹の病状を先生にお伝えしてきたのよ! 誤診のはずないわ!」  春樹のお母さんがわーわー泣きだした。  豆腐メンタルの専業主婦。で、口うるさいタイプ……今まで会った事がない人種で、扱いに困る。 「君、出て行きたまえ! 二度と春樹に関わるな!」  夫は雷オヤジか。今時珍しいな。  絵にかいたようなアンティークな家庭。  春樹を初めて見た時、王子様ってドラマの中だけじゃなく現実にこんな奴いるんだなーと驚いて観察した。  彼の育った家庭自体、現代日本からかけ離れているようだ。 「分かりました。今日は帰らせていただきます。けれど、春樹君の意志が変わらなかったら、またお邪魔させていただきます!」 「優也……」  春樹まで泣いている。 「心配しないで」  僕は春樹に笑顔を見せると、彼の家を出た。  が、この対応がまずかったらしい。  夜に竹内から電話がかかってきた。 「竹内? どうかした?」 「春樹の居場所知らない?」  かなり不安そうな声だ。 「昼間では一緒だったけど。自宅にいたよ」 「春樹、保険証と薬とお薬手帳を持ってどこか行ってしまって、家に帰ってこないらしいんだ。親がスマホに電話したら、ブロックされてるって。僕がかけても、出ないんだ……」  夜の八時か。  春樹の事だから、しばらくの間はカプセルホテルとかに泊まるぐらいの小遣いは持ってるだろう。  けど、発作を起こしても誰にも気づかれないで放置されてるかもしれない。  僕は春樹に電話をかけた。 「春樹? 今どこ?」 「漫画喫茶」 「どこの?」 「S駅の近くの」 「何かあった?」 「母さんがうるさくて、家にいるのイヤになった」 「今からそこに行くから、待ってて」 「家に帰りたくないよ」 「無理やりにでも、僕んちに泊めるようにお母さんに言うから。それでいいだろ?」 「ごめん……」  僕は春樹と待ち合わせをして彼を迎えにいった。

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