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第一章:然れど、現の雨の交響曲

―天界・水輝國・緋神帝邸・リビング ぼんやりと灯る小さな明かりは、蜃気楼の如く揺れ。ピリピリと伝わる緊迫の空気。 「―…隗兄様っ」 灯りがともる。小さな、小さな炎がユラユラと動く。 震え、驚きを隠せない“弟”を見つめ。思わず自嘲してしまう彼が立っていた。 四十年という月日が流れようと、脳裏には深く灼き付けられている様だ。 それもそうかと納得してしまうのも致し方ない。実際、恐怖の対象として植え付けてきた。 逆らう者は、許さない。 確か四十年前、絶対に破らない掟を作った。相手が年上であれ、関係無い掟を。 それを四十年後の世界で裏切ってくれようとは、腸が煮えるくらい苛々する。 ―…故に、演技するのも疲れた。 “弟”の子として転生したのは不幸中の幸いに近いけれど、演技をして生活するのは、正直、難儀の他ない。 瞳に映るこの子は何も知らない。 知る筈もないだろう? これが、序章であると。 「…覚えていてくれて嬉しいよ。“僕”の可愛い慧」 にっこりと、微笑む少年を見て、男性は眼を大きく開いた。 『有り得ない』と、いった顔をしている。 四十年前に、兄は、突然と、姿を消したという印象が、今でも、脳裏に残っているのだろう。 それは…。 間違っていないから。 仕方ない。 確かに、あの時の感覚を、思い出せば、痛かったのは、双子の弟だと、彼は、思った。 何せ…。 ー…双子の弟に無理言って。 『殺す』ように、仕向けたのだから。 知らなくて、当然なのだ。 内密に、実行へ移した殺人。 主犯は、勿論、四十年間、練ってきた『緋神帝 隗斗』こと『三神帝 隗斗』自身なのだから、滑稽な話。 “慧”を映しながら、“僕”は、思った。 そう、これは、一人の男が、企てた緻密な掃除。 三神帝に、蔓延る塵を、片付けたくなった彼は、怪しい笑みを浮かべた。

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