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「…隗、逃げなさい」 『逃げろ』と言われて素直に従う“僕”に見えるか? 押さえられている人物を見下ろし、瞳を細めた。 「出来ない…よ。父様や母様を置いて逃げるなんて……僕には…」 「そんな…サル芝居…を…してる余裕があるなら…自分の身くらい…護れっ」 自分を護る手段は沢山ある。瞳に映る雑魚を殺してしまえば、事が済むのも早い。 しかし、少年が剣を剥けてしまう行為は、波乱を招く結果になるのは、目に見えている。 「―…逃げて…」 悲痛過ぎる母親の訴え。 “僕”が逃げてしまったら君は、老い耄れに殺される。 「慧弥…妙な術を使ったら駄目だよ」 「巫麒兄様っ…」 紅い双眸が揺れ、唇から零れた名前に“彼”は、真っ直ぐ見つめた。 壁に身を預けている男性を確認した隗斗は思わず口元の端をつり上げた。 「これは命令なんだ。三神帝の邪魔をする緋神帝を潰せと云う」 『邪魔』か。 一族争いが激しい王族だとはいえ、他族を邪魔扱いする事は今まで無かった。 王族には王族の掟が存在していて、干渉しないのがお互いの領域だった筈。 老い耄れよ…。 邪魔なのは、緋神帝 咽鬼という神だろう? ―…笑わせる。 こいゆう感じを、何と、表すのかを、知っている。 『子供』という仮面を…。 外してしまえば、良いのだろう。 人の穏便な性格を、見事に、剥がしていくのが好きな奴等だ。 こんな所“父様”に…。 見られたら、お仕舞いだな。 今の『三神帝』には、敵しか居ない。 味方という味方と言えば、数知れている。 だとしたら、何を、最優先にするかは、解っているつもり。 気付かれ無い様に。 隗斗は、深い深呼吸をした。 あまり好まないんだけどな。 慧弥の前で、本性を出すのは…。 でも、我が儘も、言ってられないか。 答えが決まったのか、彼は、今まで隠していた神力を、解放した。

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