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良いんだよ…。 少しの時間だけでも家族ごっこを出来たから。これ以上、望むものは無いさ。 計画に犠牲が伴うのは心苦しいけど、一つとして狂わせる訳にはいかない。 廻り始めた歯車を止めたりするのはルール違反だから。 俺はソナタや慧弥が望む形を選ぶ…。 「…本当、世界は狭くって窮屈だ」 真新しさを感じさせる部屋は赤い色へと変わっていった。 「私は…私は…君の弟と契りを交わせて幸せだよ。麗しき、殺戮の桜…“三神帝 隗斗”…」 「…」 あぁ、視界が歪んでいく。 始まりがある様に終わりがあるかの如く。“僕”の世界が変わり始める場所へと。 微かに聴こえてきた、ざぁざぁと、降る雨の音(ね)を耳にしながら。 咽鬼と、初めて逢った時の事を思い出した。 ふんわりと、甦ってくる鮮明な記憶が。 彼方此方へ…。 散らばっていく。 これが“蓮華”が、見ていた世界。 とても、懐かしく、思えるのは…。 何故だろう。 せせらぎに…。 揺られて。 懐かしい記憶の中に“僕”は、浸るのを、覚えた。 『それは、私達が、代々、引き継いできた血筋の問題。懐かしく、心地良いのは“彼女”が、関係しているからだけど、今の君に、言っても…解らないだろうね』 そいゆう…。 ソナタは、少しばかり、高見の見物とは。 流石“僕”の前世。 その、場所に、戻れるのを、楽しみに待っているよ。 “僕”は、三神帝の御上として、明かずの間を、開く。 『ふふふっ、愉快愉快。君が、三神帝の、明かずの間を、開いた時、運命も、また、廻るというのに…。本当、未来の自分を、見ていて飽きないのぅ』 パサッと、扇子が、開かれる音がした。 うわぁ、良い性格しているよ、前世の“僕”。 これで…。 齢、三千歳なのだから。 化け物だね。 そう、自分に叱咤した…。 ゆっくり、ゆっくり、沈んでいく先に。 見えるのは。 “僕”の核とも言える存在。

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