10 / 94
1ー8
良いんだよ…。
少しの時間だけでも家族ごっこを出来たから。これ以上、望むものは無いさ。
計画に犠牲が伴うのは心苦しいけど、一つとして狂わせる訳にはいかない。
廻り始めた歯車を止めたりするのはルール違反だから。
俺はソナタや慧弥が望む形を選ぶ…。
「…本当、世界は狭くって窮屈だ」
真新しさを感じさせる部屋は赤い色へと変わっていった。
「私は…私は…君の弟と契りを交わせて幸せだよ。麗しき、殺戮の桜…“三神帝 隗斗”…」
「…」
あぁ、視界が歪んでいく。
始まりがある様に終わりがあるかの如く。“僕”の世界が変わり始める場所へと。
微かに聴こえてきた、ざぁざぁと、降る雨の音(ね)を耳にしながら。
咽鬼と、初めて逢った時の事を思い出した。
ふんわりと、甦ってくる鮮明な記憶が。
彼方此方へ…。
散らばっていく。
これが“蓮華”が、見ていた世界。
とても、懐かしく、思えるのは…。
何故だろう。
せせらぎに…。
揺られて。
懐かしい記憶の中に“僕”は、浸るのを、覚えた。
『それは、私達が、代々、引き継いできた血筋の問題。懐かしく、心地良いのは“彼女”が、関係しているからだけど、今の君に、言っても…解らないだろうね』
そいゆう…。
ソナタは、少しばかり、高見の見物とは。
流石“僕”の前世。
その、場所に、戻れるのを、楽しみに待っているよ。
“僕”は、三神帝の御上として、明かずの間を、開く。
『ふふふっ、愉快愉快。君が、三神帝の、明かずの間を、開いた時、運命も、また、廻るというのに…。本当、未来の自分を、見ていて飽きないのぅ』
パサッと、扇子が、開かれる音がした。
うわぁ、良い性格しているよ、前世の“僕”。
これで…。
齢、三千歳なのだから。
化け物だね。
そう、自分に叱咤した…。
ゆっくり、ゆっくり、沈んでいく先に。
見えるのは。
“僕”の核とも言える存在。
ともだちにシェアしよう!