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4ー4

昔から慣れているとはいえ、露草ちゃんのは可愛いレベルで済まされない。 流石の自分でも挙動不審だと思ったが、逃げるが勝ちと言うし。 逃げといてなんだけど、身体の鈍りを取ってこようかな。 久しぶりに動揺してしまった心を落ち着かせ、半分と苛々する感情をぶっつけに。 愛剣“血桜”を鞘から出すには丁度良い餌食が揃う。 滑らかな剣先は恍惚に彩りを魅せる。紅く妖しい色合いは昔から好きだった。 それは、心を揺さぶる十分な存在。 欠ける事があってはいけない運命共同体だ。 一つ欠ければ諸刃の剣となる。 「ー…心は欠けても修復出来るけど、運命共同体はどちらかが欠けてしまえば、終わり」 鼻につんとくる臭い。鉄の匂いだと解り、ふっと自分の左手を見た。 俺は、知らず知らず割れた硝子の破片を強く握り締めていたらしい。 無意識だとはいえ、露草ちゃんから逃げる間に硝子の破片など落ちていただろうか。 いや、辺りを見渡したが落ちては無かった。 だとすれば、露草ちゃんの手の中にあった事を意味する。 「俺の所に来る前、何を仕出かしたんだろう。半人前の闇を持った男は」 半ば呆れながらも、そんな深くない傷を眺め、微笑う。 それが意味する物は、自分で、解っているじゃないか。 あの男が、苛っとすれば、自分自身に対してだろう。でなければ、此処に、傷が出来たりはしない。 浅い傷だと、舐めていても、心の傷は、深かったりする。 まぁ、肩書きに、拘っている貴族連中よりは、マシな気がするけど。 それを、露草ちゃん自身が、許さないのだろう。 ー…堅物とまではいかないが。 真面目になった瞬間だ。 深い闇に、堕ちる時を、見たいよ。 俺は『殺戮の桜』としての肩書きを、よく、理解している。 だけど、露草ちゃんは『蒼氷の薔薇』という意味を解っていない。 その名が…。 意味する物は、案外、近くにあるのに。

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