44 / 94
5ー4
―水輝國・水鬼帝邸・隗斗の寝室
バリーんと、窓ガラスが割れた隗斗の部屋。
破片があちらこちらに散らばっている。割れたガラスを睨み付けながら、手に握り締めた。怒りに震えながら隗は髪を掻きあげる。
「随分と派手にやりましたね、隗坊っちゃま…」
「翔也か」
「何を苛立っているかは解りますが…」
「少し正気を失っただけだ。こんな事で黒騎士など呼ぶなよ!」
部屋に来た翔也は、隗斗の所に歩み寄った。
「都霞が紅霞を呼びにいきました…」
「ちっ、余計な事を」
「隗坊っちゃま、明後日に、天界で、パーティーがある事を、知っていますか?」
「知っている」
あやす様に説明する。
「“玄兎様”は御越しになりませんが、代わりに千綵様と黎斗様達が出席なさいます。黎斗様から伝言を預かってきました…」
「そう」
クスッと唇をつりあげ、握り締めていたガラスを手から落とした。
「やっと、逢える」
「…」
「伝言、聞きたい」
「畏まりました…」
翔也は、隗斗に頭を下げた。この二人の関係は主従関係。それは三神帝に居る頃から変わらない。
ただ、水鬼帝の者も櫂那や櫂覇も知らない。
これが、隗斗と翔也の秘密。
四十年前の事を、二人は、緋神帝の、双子には、話していない。
故に、水鬼帝の者が、知る筈も無い内容だった。
それは、目の前に居る彼が、決めた事だから、仕方ない。
ー…出生は、愚か。
四十年前の出来事は、秘密なのだ。
特に、諷夜と斑には、酷な事だから。
亡き『咽鬼』と『慧弥』は、二人の親友。
死因を知ったら、きっと、ショック以上に…。
精神ダメージが、来てしまうのを、隗斗は、知っていた。
そうまでして、教える必要も無いと、判断した上の配慮だった。
水鬼帝に来てから、そう、思える様になったのも、養父である禪のお陰かも知れない。
でなければ、二人の記憶を消している。
ともだちにシェアしよう!