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5ー8
「あまり、無理な我慢は自分を滅ぼすよ。隗斗…」
彼の紅い瞳が、冷めた色を出す。
「何が言いたい」
ガバッと、隗斗の手を取る紅霞。
「殺したいなら、思う存分に殺していい。けれど、自分の体に傷を付けるのは許した覚えない。少なくとも俺は許さないよ…」
「…っ」
「君が幼い頃から俺は言っているハズだ。『自分の体に傷を付けるな』と、おいつけは守らないとね?」
「こんなかすり傷だけも許さないとは、ドコまでも忠誠心だけ高い十五龍神だっ」
強く握られている手を払う。邪険な表情をし、彼は部屋から出ていく。
“ドコまでも忠誠心だけ高い”。それは、此の國に棲む神々に対しての冒涜なのかも知れない。
「素直じゃないのは、昔からか」
「余計に、怒りを増やしてどうするんです」
「其処は“蒼氷の薔薇”が、対処すべき点。俺や、貴方は主の命令に従う下僕にしか過ぎない。隗斗に昔以上の記憶なんてない。四十年前と、今しか彼にはないのだから…」
「やはり、貴方は黄龍を夫に持つだけあります。そうでなければ、あの、隗坊っちゃまを抑えるなど不可能」
そう、吐けば、俺が、怒るのを知っているのか。
だが…。
挑発には、乗らない。
ふんわりと、紅霞は、微笑む。
嫌味なのかも知れないが、此処で、荒立っては、十五龍神としての名が廃る。
そうすれば、十五龍神を、纏めている長である『天龍』に、迷惑が掛かってしまう。
『年上だろうと、今の長は『獅天』だ。解っているな、紅霞』
重々、承知だ。
だから、余計に、迷惑を掛けていられない。
『私の子を、頼みますね!紅霞さん』
嬉しそうに…。
君が、言うから。
俺は…。
『任せて』と、口にしたのを、彼は、思い出した。
信頼している人の孫だからとか言ったら、殺されそうなので、止めておこうと、紅霞は、思った。
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