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【隗斗side】
『幼い頃から、言ってきたハズだ。自分の体に、傷を付けるな、と…』
紅霞め、人の手を容赦なく、握り締めやがってムカつく。
確かに、幼い頃から言われ続けてきた。『体に傷を付けるな』と。
しかし、かすり傷だけであんな風に怒る事だろうか。
「本当、忠誠心だけ一人前」
幼い頃から、既に、周りに式役も式神も十五龍神も揃っていた。最初は、疑いなど抱かなかった。常に居るのが当たり前になっていたから、疑う程のモノでもない。
彼らは自分の腕、彼達は自分の足。
洗脳って恐ろしいな。
自分にでも暗示を掛けるんだから。
「さぁーて、片付けるかな」
俺は、ある場所に足を運んでいた。三神帝が所有する家臣専用の屋敷。
どうせ、皆、顔なんて忘れてるし、暴れても問題ないわけだ。上手くできたシナリオ。
『隗兄様っ…』
泣きじゃくる弟の顔が浮かんだ。
『殺せない…』
それでも、殺すように仕向けた自分は愚かな生き物。嫌がらる弟を無理矢理納得させたんだから。
―…卑怯な嚇(おど)し方で。
黎斗“僕”は、君に、己を、殺される事で。
使命を、果たせると、思っていた。
だけど…。
ほんの少しばかり、間違っていたかも知れない。
君の、息子まで巻き込んでしまった計画。
流石、母親だ。
幼き頃から味を覚えさせるとは。
『隗は、これ、作れないの?』
俺では…。
双子の、弟が、作るクッキーは、無理だよ。
あれは…。
黎斗が、初めて出来た子供の為に、覚えた最初のお菓子だから。
騎兎は、それを見ながら幸せな笑顔を浮かべていたよ。
君の、父親は『夜神帝』の穏やかな部分を、丸っきり引いた人だ。
老い耄れ爺の血を引いているとは、思わないよ。
「やっぱ、俺も、子供の為に、一つ、覚えておくべきかな」
甘いスイーツの、一つでも。
燐夜に、習えれば早い。
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