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露草は、黙りながら、彼を観察していた。
兄が、育て上げた双子だから、無論、武術も、得意だが。男性より、年上な分、配慮しているつもりだ。
彼等の前では、本性を出さないのを条件に、父親の言い付がけは、多少なりと、守られている。
兎に角、双子のどちらかに、出さなければ良いと、考えていた。しかし、時折、出そうになるから、気を付けなければいけない。
ほんの、少しの衝撃で、バリーンと、壊れてしまう場合がある。
だから、用心に、越した事は無い。
一応、隗斗の兄だ。
無惨に、斬り付ける訳にもいかない。
『あの二人は、隗みたいな持久力がある訳でも無いし、暁草みたく、運が悪く、遭遇するという事も無いから、露草の、本性を見せた瞬間、還ってこれなくなるよ』
そう、燐ちゃんに、言われた。
だから、気を付けてはいるが、たまに、スイッチが、入りそうになる。
『あれが…噂の奈兎の魂を持つ、水鬼神。へーっ、燐兎も…考えたものね。しかし、覩梦の魂が、蒼いと、気付いたのは、感心するけど、蓮華が、許したのも不思議ね…』
不意に、観察をしていた女性は、相手の容姿を見た。
奈兎の生まれ変わりであり、蒼い魂を持つ、水鬼神と聞いていた。滅多に、生まれたりしない。
『因果よね。三神帝の血を垂らせば…出来てしまう。皮肉にも、燐兎は、孫を、水鬼神として覚醒していた。高慢で…俺様の奈兎を殺してまで、手に入れなかった理由…』
一つしか、思い浮かばないが、今は、時期じゃない。
『ー…私しか居ないわよね…?』
隗斗が、準備しない筈が無い。
軈て、生まれてくるであろう人畜有害。
それは、新たな形としてじゃなく、丸っきり、過去の記憶を持って生まれてくる。
見た目は、多分、言わずとも解ってしまった彼女は、小さな溜め息を吐いた。
瞳に映る、露草そっくりなのだろう。あれで、もし、隗斗譲りだったら、笑ってやろうと、思った。
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