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【櫂那side】 朝、俺は珍しい光景に目がいく。ソファーに座る隗が珈琲を飲みながら朝食を食べている。 雨でも降り出しそうな光景だ。 しかも、よくよく見ると、距離を置いて露草が会議の資料に目を通していた。 こいゆう風に見れば美形だがな。 隗を追い回している日常を見れば、ドコかズレている気もする。 「何時もの露草じゃない…」 「燐ちゃんも静かに」 「はい…」 黒縁の眼鏡を掛けながら燐ちゃんを凝視した。今日はパターンが逆だ。 「露草ちゃん…」 「ん?」 「眼鏡掛けてたんだ?」 「たまにだよ」 口を開く隗は、不思議そうに露草を見つめる。隗から露草に声を掛けるのは、この家に住み始めてから珍しい事だ。 「じゃあ、会議の時は?」 「掛けてるよ」 「ふーん」 「隗?」 弟よ、君は朝から何ていう場面を兄二人に見せてるんだ。 頼むから頭痛の種を増やさないでくれ。 只でさえ、翔也様の冗談で、堪えている部分がある。 労るという言葉が、隗の中に、存在しているか、解らない。だけど、翔也様を、顎で使っているのは、流石だと思う。 現代翁を、手で転がしている辺り、弟の得意技。 『櫂梛、契りを、交わす時は、是非、教えて下さい。都霞に…芸を、叩き込もうと思いまして』 自分の息子に、何をさせようとしているか、聞きたい。 しかしながら…。 触れてはいけない気がする。 俺の別の世界が、広がりそうだ。 亜柘羅は、平気だろうが。 俺には、器用範囲が、無い。 遠い目をしながら、現代翁の冗談に、付き合った日には。樿父様みたく、胃薬が、必要になる。 抗体は、付けておくべきなんだろうが、あの、爽やかな笑みを浮かべながら、見えない圧力に、耐えられる自信が無い。 本当に、やりそうだから、頭から危険信号が鳴っている気がするんだ。

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