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第七章:濡れた華びら(後編)(隗斗side)
風を、切る如く、走る。
自分で、認めてしまうのが、最初は恐かった。時折、見せる表情は、四十年前に、愛したアイツに似ているからだ。
俺が、戸惑いを見せるなど、最初で、最後かも知れない。
好きなら。
欲しいなら…。
―…手に入れろ。
「露草ちゃんは、奈兎…」
唯一、愛する人がいた。
老い耄れ爺と、母親の手により殺された。それが、俺の転生した理由。
『不潔よ』
そんな、言葉を、吐いた、母親。
あの、男を汚していいのも、傷付けていいのも、俺だけだと、思い知らせてやる。
「露草ちゃん!」
庭園のベンチに座り、溜め息を吐いている露草ちゃん。
その仕草は…。
昔の彼に似ていた。
困った様な表情を浮かべ、仄かに、微笑む顔。風に吹かれ、髪をウザったそうに払う姿。
「隗?」
此方に、視線を、向けると、キョトンとした表情をする。
昔の、アイツは…。
そいゆう顔が、似合う男じゃなかった。
大人で、余裕に溢れていて、俺様。
しかも…。
ー…傲慢だ。
『俺は、 夜神帝も、大事だが、何時かは、甥っ子が継ぐ総帥としての座を、護らないといけない。争い事を、好まない夜神帝一族が…何故、存在するのかを、考えて欲しい。『殺戮の桜』としてのソナタに…』
お互いに、共存という立場を、考えてはいなかっただろう。
夜神帝は、王族の中で、どちらにも付かない。
それが、騎兎の決めた掟。
見方には、使わないが、両刀の意見は、聞く。
それは、妃奈騎の為だ…。
『息子が、大きくなる頃には、争いが無く、平和な日々を送って欲しい。そして、奈兎は、隠居してしまえば良い』
双子だけど、兄に、厳しかった…。
『じゃあ、奈兎が隠居したら、僕は、妃膤と、契りを、交わそうかな…。下の子が、物心付く前に、籍を入れたくって。心多きなく…妃膤との生活が、出来るよ』
笑顔で、語る燐兎に、凄い剣幕な顔を浮かべて。
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