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【露草side】 柔らかい感触。フローラルな香り。 メガホンで、叫んだ様な五月蝿い声に、意識が半分覚醒した。 一人、興奮している櫂梛さん。 朝から気合い入ってんな。 隣には、スヤスヤと安眠している隗。櫂那さん、そんな大声出していいの? 『こんなブラコンを持って』 ボソッと、囁かれる科白。 隗斗の、不機嫌さ、マックス。 慌てる彼を他所に、俺は、眠い眼が、閉じないのを、我慢していた。 そういや、櫂梛さんの婚約者、夜神帝の者だったな。 『…っ』 あんな、大きな声出すから…。 「兄だろうと、俺の安眠を妨害したら容赦しないっ」 低い声で、くくくっと、笑う隗。 恐いぞ。 『安眠している隗を起こすな』と、今の状況を言うんだろうな。 ま、起こしたのは、櫂梛さんだから、仕方ない。この際、折れるべきだ。 素直に、謝る事を、勧める。 俺は、先ほど、出た夜神帝の事を、考えていた。 天界五大王族の一つ。 何処の味方もしないのが、夜神帝の掟だと、聞いている。それも、姫奈騎王の亡き、父親が、決めた事だと。 だが、俺は、彼を知らない。 御披露目会にも、顔を出さない謎の青年だと、聞いているが。 『姫奈騎が、出て来ないのは“僕”のせいでもあるかな』 少し、悲しそうな声が、隗から漏れる。 ー…何だ、今の、哀愁漂う表情は。 俺は、一瞬、目を疑う。 水鬼帝に、来て、初めて、瞳に入れる光景だ。 こんな姿を目の当たりにするとは、思いもしなかった。 一体、隗と、夜神帝 姫奈騎との関係は? 『ティル・フィロム』 隗と、目が合った瞬間に、囁かれた言葉。 ー…何か。 辺りが、白く、霞む。 これ、何処の…。 言葉だ? 『本来は、ドイツ語なんだけどね』 櫂梛さんに、バレない様に、口元へ、人差し指を、当てた隗は、お茶目な表情を、浮かべた。

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