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8ー20

紅い桜の花弁が、ひらりと、一片だけ隗斗の横へ落ちる。 此処で、大人しくしているとは思えないが。少しだけ、黙っててもらわないと困る彼女は、思惟した。 これから起きる掃除とやらは、勝手にヤレば良いが、もう一つの方は、そうも言っていられないのだ。 水鬼帝が、安全だと考えた隗斗の企みは解る。しかし、それで、納得する様な相手か。 -…隗斗は、考えなければいけない。 『お前の頭に、少しでも、彼の記憶があればの話だけど』 三神帝の姫としては、見過ごせない部分もある。 あの、お気に入りの場所から出てくる意味を、千綵も、理解しなければいけない。 『始めて!』 『おぉっ、恐い恐い…』 サササッと、葉が、揺れ始める。 水鬼神を生むという事の意味を…。 簡単に、考え過ぎね、隗。 -…何処へ、運ばれる事は。 闇の誘いが、必要だと。 これは、神々の上に立つ者が、決めた掟。 想像をした女性は、思わず、嘲笑した。 本当は、バチが当たるんじゃないかと思ったが、そうでも無いと、理解する。 『“謳櫻”に、似合わう主にならなければ、隗斗、蒼い魂を移し身した燐兎が、可哀想よ。それに、貴方には、弟を、産んでもらわなければ』 『うわぁ、腹黒いのぅ』 『三神帝の姫は、昔から、恐い…』 そんな言葉が、飛び交う中、彼女は、指を鳴らした。 -…とりあえず。 最初の、代価は、頂いておくわ。 部屋全体に、魔力が、行き漂っていった。 やはり、血桜に血を吸わすより、奈落。 隗斗の一扇を起こした方が、早い。 一瞬だけ、女性は、蹴り飛ばした方が、早いかと、考える。 が、それは、思い留まった。後で、文句を言われても、対応が、面倒臭いと、思ったからだ。 あれは、根に持つ相手が決まっている男。 早々、堪忍袋は切れないとはいえ、丁重に扱わなければ失礼だと、考えた結果だった。

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