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狼の涙が枯れた時⑥【狼視点】
「寛太 ……?」
莉久 の声に顔を上げる。
そこにはパソコンを持った莉久が立っていた。俺は呆然としながらも、ベッドから降り床に崩れるように座り込んだ。
「俺さ、昨日色々調べたんだけど、番を解消する方法があるらしい」
俺の横に座り込んでパソコンを見ろと指差してくる。
番を解消する方法?
「莉久、本当に番を解消する方法なんかあんのか!?」
俺は莉久の両肩を掴み、激しく揺さぶった。
痛みに顔を歪めながらも、
「成功するかはわからねぇけど、あるはある」
「教えてくれ、頼む!!」
俺の馬鹿みたいに真剣な顔を見て、莉久は静かに頷いた。
「ただ……『解消』っていうより、『αが一方的にΩを捨てる』っていう表現のが正しいかもしれない」
「……捨てる?」
どこまでΩは下等な扱いを受けなきゃいけないんだろうか。聞いてて悲しくなってくる。
「番を解消したいΩの手の甲を、αが噛めばいい。方法自体は簡単なんだ」
莉久は、自分の手の甲を噛む真似をして見せる。
「なんだよ簡単じゃん!?今すぐにでもできる……」
「でもその後が、簡単なことじゃないんだよ」
俺の言葉を莉久が遮った。
その顔は怖いくらい真剣で、俺は言葉を失ってしまった。
「簡単なことじゃない。一方的に番を解消されたΩは、地獄のような死ぬ程の苦痛を3日3晩味わい続けなくてはならない。それに耐えきれなくて自ら命を絶つΩすらいるらしい……」
「…なんだよ、それ……」
発する声が震えてしまう。
そんなのあんまりだ。
簡単にできることじゃないって、容易に想像がついてしまう。
「もしそれにお前達が耐えられないっていうのなら……」
莉久が切なそうな顔で、俺を見つめた。
「航 は、俺が一生かけて守るよ」
「莉久……お前……」
その時に確信した。莉久は航のことが好きなんだ。
だから、航のフェロモンにあんなに過敏に反応したのかもしれない。
ただ、番を解消されて辛いのも、苦しい思いをするのも俺じゃない。
航だ。
あいつはそんな思いをしてまで、俺への思いを貫こうとしてくれるだろうか。
俺はそこまで、航に愛されているだろうか。
正直自信がない……。
「航に聞かなきゃわからない。それは、航が決めることだから」
俺が無理してはにかんだ瞬間。
「俺、それ試してみたい」
航の声がしたから驚いて振り返った。
「ねぇ、いいでしょ?」
ベッドに寝ていたはずの航がいつの間にか目を覚まして、俺のシャツをまるで子供のように掴んでいた。
「航……」
「大丈夫だから、やらせて?」
その可愛い笑顔に胸が熱くなる。
「お前わかってるのか?死ぬ程の苦しみを3日間も我慢できんのか?」
真剣に問えば、「うーん?」と上目遣いで何かを考えた後、フワッと微笑んだ。
なんて可愛いんだろうって思ってしまう。
「俺、寛太と番になれないくらいなら、死んだほうがマシだ」
あまりの透明な声と笑顔に吸い込まれそうになる。
『愛してるよ』
あの言葉は嘘じゃなかったんだ。
また、泣きそうになってしまう。
泣き虫だって、航に呆れられちゃう。だから、俺は必死に涙を堪えた。
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