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お風呂に入ろう!

<sideルーファス> 食事を終え、そろそろ風呂か……。 そう思うだけで滾る自分がいる。 決して邪な気持ちだけでレンと入りたいと思っているわけではない。 だが、少しでもレンとの思い出を作りたいのだ。 生涯の伴侶と永遠の別れになるかもしれない私にこれくらいの思い出をもらってもいいだろう? そう自分に言い聞かせてレンを風呂に誘うことにした。 「レン、今日は疲れただろうから風呂に入ろう。湯に浸かって身体を癒すといい」 「わぁっ、お風呂! 嬉しいっ!」 「レンは風呂が好きなのか?」 「はい。僕が住んでいた家は小さなお風呂だったんですけど、子どもの頃に温泉……お風呂で有名な街に住んでいたことがあって、よく入りに行ってました。外の景色を見ながら入るお風呂はとても気持ちがよくて……お店の人の好意でいっつも一人で入らせてもらってたので、大きなお風呂に一人で浸かってましたよ」 「店で……一人で?」 「そうなんです。本当は大勢の人と一緒に入るものなんですよ。でも、僕が行ってたお店のおばあちゃんが、なんでかはわからないんですけど、僕がみんなと入るのは危ないからって、いっつも貸切にしてくれて……だから、一人でゆっくり入らせてもらってました。一人はすごく楽でよかったですけど、たまには誰かと一緒に入りたいなと思ってましたよ。今考えても不思議なんですよね〜、なんで危ないって言われたんだろう?」 「レン……それは裸で入るのか?」 「えっ? だって、お風呂ですよ。当然裸です」 「――っ、なんと!」 店で風呂に入るというのはよくわからぬが、金を払ってまで入る風呂なのだからおそらく相当広い風呂なのだろう。 そこに不特定多数の者が裸で入る……。 そこにレンが入っていたら……考えるだけでも恐ろしい。 私のレンの裸が大勢の者に見られていたかもしれない。 無防備に美しい肌を晒すレンをその老女は守ってくれていたというわけだな。 ああ、なんと素晴らしい老女だろう。 目の前にいれば、どれだけでも褒美をやるのだが……。 礼を言えぬのが悔しいくらいだ。 だが、誰かと一緒に入ってみたかったと言っていたな。 ならばちょうどいい。 「レンの入っていた店の風呂がどれだけの広さかはわからんが、我が城の風呂場もなかなかに広いぞ」 「本当ですか!? わぁっ、楽しみです」 「では入りに行こうか」 「えっ? ルーファスさんも一緒に?」 「ああ。生涯の伴侶とは同じ風呂に入るのがしきたりなのだ。レンは誰かと一緒に入ることは抵抗ないのだろう? ちょうどよかった」 「えっ、あっ……そう、ですね。広いお風呂なら温泉入りに行くみたいなものか……。なら、いっかな」 私の言葉にすぐに了承したレン。 私としてはこの上ない幸せな状況だが、本当に危なっかしい。 その老女がレンのそばにいて守ってくれていて本当によかった。 ベルを鳴らし、すぐにやってきたクリフに 「レンと風呂に入る。レンの分の夜着も用意しておくように」 と指示を出すと、すぐに風呂場へと準備に向かい、ものの数分で戻ってきた。 「準備が整いましたのでご案内いたします」 「よし。じゃあ、レン行こうか」 レンの小さな手を取り、風呂場へと向かう。 私の部屋からはそんなには離れていない。 風呂場に到着し、クリフに 「お前はここまででいい。あとは私が世話をする。お前は湯上がりのレンが誰にもみられないようにしておいてくれ」 というと、 「同様のことをエルヴィスさまにもずっと指示されておりましたので、その点は心得ております。どうぞご安心くださいませ」 とにっこりと笑顔を浮かべて出ていった。 そうか……父上も。 おそらく歴代の王も同じだろう。 生涯の伴侶への独占欲は(いにしえ)より代々受け継がれてきたものかもしれないな。 <side月坂蓮> 食事を終え、ルーファスさんにお風呂に入ろうと誘われた。 僕たちのいた世界でも湯船に浸からないところもあるというのに、この世界には湯船があることにホッとする。 僕は日本人だからということもあるけれど、転勤族の父親に連れられて全国に引っ越しした経験のある僕は、温泉で有名な場所に住んでいたことがある。 家からすぐ近くにあった有名なお風呂屋さんに初めて入りに行った時、入り口にいたお婆さんにあんたは危ないから入っちゃだめだと言われて断られたんだ。 確か、小学6年生くらいだったかな。 あの時はきっとここのお風呂が深くて溺れるから危ないっていう意味だと思ってた。 でも、どうしても入りたいってお願いしたら、お風呂に貸切の時間を作ってくれてその間だけ入れることになったんだよね。 その時は脱衣所もお風呂場も僕だけ。 本当の貸切風呂にただ単純に喜んでいたけれど、クラスメイトがみんなで入りに行ったなんて話を聞くと楽しそうで羨ましいなとも思っていた。 だけど、お婆さんは絶対に誰かがいる時は入らせてくれなくて、他のお風呂屋さんにも絶対に行っちゃいけないって口が酸っぱくなるほど言われてた。 あの時はお婆さんの言うことを真剣に守っていたけれど、結局何でだめだったのか分からずじまいだったな。 いつも貸切にしてもらうのが申し訳なくて月に3回くらいしか入りにいけなかったけれど、温泉地のある場所に住んでいたのはあの時だけだったし……今ではもっと入りに行っておけばよかったなと思う。 でも、ここに来て、このお城のお風呂がかなり広いと聞いてものすごく期待してる。 ルーファスさんも一緒に入ると聞いて驚いたけど、しきたりと言われれば断るわけにもいかない。 それにいつも一人で入っていたから、誰かと入るのは楽しそうだ。 ふふっ。ここのお城のお風呂はどんなお風呂なんだろう……。 楽しみだな。 クリフさんに案内されてお風呂場に入ると、脱衣所も十分すぎるほど広い。 さすが国王さまの入るお風呂って感じがする。 それに脱衣所全体に甘い花の香りがするのは気のせいじゃないよね? もしかしてこれってお風呂の匂いなのかな。 うわーっ、ものすごく期待しちゃうな。 早くお風呂に入りたくて、急いで服を脱ぎ始めると何故か視線を感じる。 「んっ?」 見れば、ルーファスさんがじっとこっちを見つめている。 「あれ? どうかしました? ルーファスさんも一緒に入るんじゃなかったですか?」 「あ、ああ。そうだな。悪い、ちょっと考え事をしていた」 ああ、そっか。国王さまだもんね。 きっといろいろ考えなきゃいけないこともあるんだろう。 僕みたいな子どもには分からない大変な仕事だもんね。

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