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第二十四話

* 「――アッ、……がは、……」  強烈な息苦しさと共に、カイは目を覚ます。その瞬間にごぼりと口から血が溢れてきて、吐き気を催しながら何度もせき込んだ。   「……、ここは」  カイはハアハアと息をきらしながら、体を起こす。自分がいる場所を確認しようと目を凝らしてみるも、暗くてここがどこなのかわからない。どうやら……牢獄、ではないようだ。広く、空気が埃っぽい大きな建物。そしてカイは台のようなものの上に乗せられていて、……服を全て剥がれていた。 「ようやく目が覚めたか」 「……ジークフリート王子?」  声が響く。  目を凝らしてみてみれば、ジークフリート王子の影が近づいてきた。そして彼はカイのすぐ傍まできて、じっとカイを見下ろす。 「……なんで、俺、裸?」 「なんだ、服が着たいか」 「そ、それはもちろん……。だめ、ですか?」 「着たいなら着ればいい。着たいならな。ほら、これがおまえの服だ」 「……?」  ジークフリートはカイに服を手渡す。カイは何か妙なものを感じて恐る恐るそれを受け取ったが……受け取った瞬間に、「おかしい」と気付いた。ずしりと重く、べたべたと湿っている。  戸惑うカイを見てか、ジークフリートはため息をついた。そして、ようやく――ランプに火を灯してくれた。  その瞬間だ。カイはゾッと身の毛がよだつような心地に襲われる。 「なっ……んだ、これは」  カイは自らが握っていた服を、思わず手放した。服は――ぐっしょりと、血で濡れていた。おかしいのはそれだけではない。カイが乗せられていた台の一面が血で濡れており、さらには臓器のようなものが点々と転がっている。気を失っている間に何があったのかと、カイは問い詰めるような視線をジークフリートに投げかけた。 「……勝手なことをするなと言いたいのか? けれど、悪いが俺はおまえに聞きたいことがある。黙って死なれたら、困るんだ」 「いや、……わけがわからない。ジークフリート王子、貴方は俺に何をしたんだ」 「体の復元だ。おまえの体は……虚数定義魔術の影響で、人間とはかけ離れたものに変化しかけていた。放っておけば、おそらく死んだ。だから、おまえが狂わせたおまえという人間の定義の復元を、俺がやったんだ。一度体を破壊してからもう一度作り直す、という作業の繰り返しだったからな、御覧のとおり血の海だ」 「な、」 「言っておくが、完全に復元できたわけじゃないぞ。虚数定義魔術を使って狂った定義は、そう簡単に修復できるものじゃない。いつ俺が定義したおまえという存在が、綻ぶかわからない。大体こういう魔術は俺の専門外だからな」 「つまり……助けてくれた、ってこと?」 「聞きたいことがあるからだって言っただろう。勘違いするな」  カイはジークフリートを見上げて、彼の表情を観察してみる。国民に見せる顔と違って、随分と冷たい表情をしているようにみえるが……その表情に、カイは恐怖を感じなかった。  ジークフリートは見つめられて居心地が悪くなったのか、眉を顰める。カイがさりげなく自らの腕をさすれば、はあと大きなため息をついて自らの外套を脱ぎ、それをカイの肩にかけてやった。
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