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奴隷と水浴び⑥

「勘違いするな。スズコ=スノーレェィンに確認を取る。もし発言に相違があった時は、お前を殺す。アンクが知っていて良い情報ではないからな。どういう意味かは解るだろ?」 メシアの行動に眉一つ動かさずに、ふん、と鼻息を漏らす青年の言葉に、メシアは小さく笑った。 殺すと脅され笑みを浮かべるメシアに、青年の眼が開かれる。 青年がメシアに告げた言葉の意味は簡単なことだった。 奴隷の身分で知る筈のない情報を得ている。 それは即ち、スパイの可能性があると言いたいのだろう。  それでいい、と頷くメシアに恐怖はない。 嘘は言っていないのだから、恐れる必要などない。 メシアの恐怖はただ一つ。 他人に触れられることだけなのだ。 他のことは取るに足らない。  自分を値踏みするかのように見てくる男に言葉を掛けることなく森の中にと足を踏み出した。 後ろを着いてくる気配を背に感じながらメシアは森の入口までの15分程の距離を歩くのだった。 * * * * * *  街とカースレストの境目に辿り着き、隣に並んだ男に一瞥を投げる。 メシアの視線に気付き、青年の顔が少年を向いた。 「此処まで来れば流石に大丈夫? 待っていればその内ソーマも戻るだろうし。僕は仕事があるから」 そのまま青年を置き去りに街に入って行こうとするメシアの背に、聞き慣れた声色が掛けられた。 「メシア! 王子も一緒か。良かった」 森の中から走って来たソーマに肩を掴まれ反転させられる。 久し振りに会う従弟は、変わらずにお伽噺の王子様のように綺麗な顔を近付けてきた。 サラリとした黒い髪がメシアの頬に当たる。 額同士を合わせ、目を見詰められた。 顔を両手で包まれ、頬を撫でられる。 彼はいつもスキンシップが激しい。 「ソーマ。お客様の案内ぐらいしっかりしろよな。知らない人間がいきなり現れるから、吃驚した」 幼い頃から一緒にいたスノーレェィン家の人間とは、触れ合うことに恐怖を感じることは少なかった。 多少の恐れはあるものの、振り払う程に怖くはない。 小さく揶揄(からか)うように笑みを向けた。 「すまない。泉に行きたいと言われて案内していたんだが、気付いたら見失っていた。一応、泉を覗いたんだが擦れ違ったみたいだな」 ソーマの顔が離れていくのを無言で眺め、メシアは背中を向ける。 もう行く、と態度で示したつもりだったが、後ろからソーマに抱き竦められてしまい身動きが取れなかった。 「会えて良かった。久し振りだろ? 元気にしていたか? みんな心配している。たまには顔を見せて欲しい」
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