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白昼夢2

「おい!どこだ!?」 さほど奥行きのない路地裏でその先は行き止まりだというのに、あの人の姿はどこにも見当たらなかった。 膝下まで積もった雪の中で何かに躓いて足元を見下ろすと、白い雪の中から黒く長い何かが伸びているのが見えた。 鼓動が早鐘を打っていた。 その黒く長い〝何か〟が、あの人の髪の毛である事に気づいてしまったからだ。 「ユキさん…?」 俺は慌てて雪を掻き分け、そこに横たわるあの人の体を抱き上げた。 「…え…?」 ぬるりとした液体の感触と重力に従いだらりと落ちた四肢が、瞬時に俺の五感に訴えかけてきたものーーそれは、たった一人の尊い人間の死だった。 「……嘘だ」 真っ白な雪の上に滴り落ちる血液は、まだ温かかった。 慌てて左胸に耳を当てたが、そこに命の鼓動はなく、俺はさらなる絶望感に襲われた。 どんなに強く抱きしめても、刺すように冷たい真冬の空気はあの人の体温を奪い続けた。 呼吸すらままならない状態で、俺はあの人の胸に顔を埋めていた。 「……ッ……ぅ゛っ……息…して……?」 血に塗れた手のひらで、あの人の頬に触れた。 冷たかった。どこもかしこも。 あの人の優しい笑顔や声は、もう雪に溶けて消えてしまっていた。 残っていたのは、凍りつくような美しさだけだ。 「……ユキ…さん…ッ……」 細い路地裏から見上げた空は、そこが空とは思えないほど濁った色をしていた。 やがて汚れた空気を浄化するように舞いはじめた雪は、儚く散った命の上に残酷に降り積もった…ーー。
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