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不服従(2)

(29) 「……はい、マスター」  ザッカリーは、「従順な従僕」そのものの声音で返事をし、スラリと上品なしぐさで、主人に歩み寄る。  ただし、シミだらけのスラックスの前立てから、根元を縛られたペニスを出したままで。  「エロ人形(セクサロイド)」の指先が、ゆっくり、俺へと伸ばされた。  すべらかでひやりとした手指に、両頬が包まれる。  ザッカリーの顔が近づいてきた。  長すぎる睫毛。  微塵の濁りもない眼球。  そして、俺のくちびるに――  やわやわとしたモノが触れる。  考えるもなにもなく、俺は、その膨らみをくちびるでついばんだ。  ちゅくちゅくと音を立てて吸い、前歯で齧って弾力を味わって、舌で嘗め回す。  尻とペニスの間が、ドロドロに爛れていた。  ナニがヒクつくと、突っ込まれた棒の先端のふくらみが、ナカのあちこちに、微妙にすれてもどかしくて。  切ないじれったさに、俺の腰は勝手にグラインドを始める。  それでもって舌は、ただただアンドロイドの口腔を貪って止まらない。  キスの間に息を継げば、俺の口からは、「ぁぁ…ん、うぅん…」と、甘えた雌の声ばかりが漏れ出した。  羞恥が涙に直結しているみたいにして、俺はまなじりからボロボロと滴をこぼれさせる。 「…す…き、キス、すき…ジンジン、きもちいい」  すっかりと自慰の時に、エロい独り言を言う癖がついちまって。  声を裏返らせながら、俺は甘え切った言葉を洩らし続けていた。     ザッカリーが、唐突に俺の顔からくちびるを離す。  そして「この…変態……っ」と吐き捨てた。  俺の頭の隅の隅に残っていた小さな理性は、  「そりゃ、確かにな」と、アンドロイドの罵声に賛同せざるを得ない。  おいおい、でもさ。だがな?  縛られたチンコを視姦されて「トロ顔」してやがるオマエに言われたくねぇぞ?  けど。  そんなことを思いながらも、俺は。  途切れたキスが切なくて、もうどうしようもなくて。 「もっと、して……チュッチュして」と、ねだり声をあげてしまう。  店主はといえば、肘掛け椅子に身体を預けたまま、俺と店番人形とのキスを打ち眺めていた。  ふと、緩いオルガスムスが腹の底から湧き上がって、俺は膝を震わせる。 「あん、あん、あっ、して……おちんちんの中、グリグリして……あん、あんっ…あ」  よがり声をあげて、ひとり見悶える俺を、透き通る視線で優雅に無視し、ザッカリーは軽く睫毛を伏せたまま、主の脇にたたずむ。  糊のきいたカラーにタイ。  そしてベストにテールコートという気取り切った装い。    だが、ただ一か所だけ……。  スラックスの合わせ目から、陰茎を剥き出しにさらしたまま。  そんな行儀よい従僕の態度に満足したのだろう、店主がふわりと微笑む。 「良い子だ、ザッカリー。お前は、私の言うことをきちんときける子だと、もちろん分かっているのだよ」  ついに与えられた、主人の優しい誉め言葉。  けなげなアンドロイドは、こみ上げる悦びにほどけそうな美しいくちびるを、それでも懸命に、凛々しく引き結んだ。 「さて、この淫乱な『毛むくじゃら』をどうしようか、ザッカリー? お前が、このまま引き続き可愛がってやるかね? ああ、それとも私が行儀を『躾ける』か……」  どちらの選択肢も耐え難いとばかりに、ザッカリーがかぶりを振って、力なく跪いた。  そして懇願のまなざしで、主を見上げる。 「または、私がお前を可愛がっている様子を見せつけてやるか。さて、どれにするか、褒美に選ばせてやろう、ザッカリー」  勃起の痙攣に合わせて、俺のペニスに差し込まれた棒が、少しずつすこしずつ排出されていく。   「あ、あン、やだっ……ぼう、が、でちゃ、う」と、思わず悲鳴が漏れた。  うごめく棒の先端が、時折抉り上げる箇所が、たまらなく気持ちよくて。  もし今、手を拘束されていなければ、たぶん、俺は自ら、それをピストンさせてしまっていただろう。    けど、何もかもがままならなかった。  他にできることもなくて、俺はただ必死に、尻と陰嚢の間を床に擦り続ける。  まるきり、女がマスをかいてるみたいなありさまだった。  そんな、生殺しにされ、のたうつ俺の前で――  ザッカリーが、店主の下腹部を寛げていく。  スラックスの前立ての留め具を外し、そこへとゆっくり顔を埋めた。  あたかも、白手袋をはめた手で地球(テラ)時代の稀覯本でも扱うような。  慎重で丁寧な指先で、ザッカリーが店主のナニを扱き始める。  っていうか……あのジジイ。  気取りくさって、カリっと枯れたみたいな顔してるクセして。  なんっていうか、外面とは似ても似つかないような「ブツ」をしてやがんのな。  色艶といい、ハリといい。カリの大きさといい。  おい。あの歳で、あんな角度で勃つモンなのかよ。   そりゃまあ、あんな「ご立派」なら、あれだよな。  「店番兼夜の恋人」の一体や二体くらいは必要か……って。  いやいやいやいやいや。  だから、俺は一体。  ジジイの「ナニ」を、こんな……つくづく、ガン見してんだって?!  とかなんとか、そんなことを思いながらも俺は。  ザッカリーに舌技を施され、濡れて艶を増していく店主のブツから目が離せないまま、自分の股ぐらを床にこすりつける。 「脱ぎなさい」  淡々と主から命じられ、ザッカリーが立ち上がった。  静かにサスペンダーのボタンを外し始める。  スラックスと下着が、ストンと床に落ちた。  そのまま、尻を店主の方に向け、ザッカリーが四つ這いになる。  頬を紅潮させ、下半身だけを丸出しにした美青年と、俺は正面から向かい合う。  エロアンドロイドの両腕の間、シャツの裾の割れ目から、根元を縛られたペニスが見えていた。  ザッカリーを四つ這いにさせたまま、店主はふたたびティーカップに指を伸ばす。  そしてしばらくの間、ゆっくりと、紅茶を飲み続けた。  その最後のひとくちを優雅極まりなく喉に流し込んで、やっと店主が立ち上がる。  ザッカリーの尻肉を、両手で掴んで、クイと割り開いた。  俺の目の前の、アンドロイドの瞳が――  期待に満ちた陶酔に蕩けていく。  吸い込まれちまったみたいに、俺はザッカリーから目が離せない。    緩んでいく完璧な形のくちびる。  震える長い睫毛。  涙の粒が、今にも零れ落ちそうに、どんどんと潤んでいく瞳。  今、エロ人形が「ナニ」をされているのか。  それがありありと、手に取るように、俺にも分かって――  ヤツが得ている快感を察し取って、床に尻を擦りつける動きが止まらなくなる。  そしてついに――  大きく顎をそらせると、ザッカリーが、甘い歓喜の鳴き声を上げた。

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