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第83話

智が起きる少し前に目が覚めた椿は隣で眠る智をずっと眺めていた。 高い鼻筋に形のいい唇。 いくら見ても飽きの来ないその顔を眺めていた。 いつも通りに目が覚める日常に、愛しい顔が見られることは大変幸せなのことなのだが。 椿は昨日のことを思い出すと、ふぅ……と小さく息を吐いた。 最後で無かったのは良かったことだし、これからも付き合いを続けていきたいと言われたのはいいこと。 しかし正式な名前を持たないこの関係は一体……。 しかも、椿に好きな人ができるまで、だと智言った。 智にはきっと、椿のことが伝わっているようで伝わっていない。 相手の全てを見ることが出来たら楽なのに。 椿はタオルケットから出ている智の体を触った。 「智さんのばか。」 すると智が突然顔を歪めて寝返りを打った。 眉間にシワを寄せて居心地が悪いのかとでも聞きたくぐらいもぞもぞと動く。 そして苦しそうな声もあげだす。 ……? なにか悪い夢でも見ているのだろうか。 椿は智を起こしてやるべきか悩んだ。 「智さん……」 ゆすゆすと軽く智の体を揺する椿。 しかし智の起きる気配はない。 ……苦しんでる顔もかっこいい……。 なんて不謹慎だ。 あたふたとしながら椿は智を心配そうに見つめる。 しかし、そんな心配とは裏腹にしばらくするとパチリと目を開けた智。 いつものような笑顔を見せるくせに、どこか少し様子のおかしい智。 そうは思っても智の様子がおかしいのは割といつものことで、椿は首を傾げながらも次のことを考え始めていた。 智も会話は終わったと思ったのだろう、脱ぎ捨てたスーツを持ち上げながら険しい顔をしている。 「アイロンありますよ?」 「でもワイシャツとかないから一回家に帰ろうかなぁ。」 椿はくぁっと欠伸しながらベッドから出た。 脱ぎ捨てられた下着を身につけて、部屋着も手早く着ると冷蔵庫を覗き込んだ。 正直冷蔵庫の中身は裕人が管理しているせいで椿にはあまりわからない。 しかしなんでも作れる程度に食品は揃えてあるし、裕人が時々ご飯を作りに来て一緒に食べてくれたりする。 「椿くん。」 「っうわ、びっくりした」 「すごいね、自炊とかするの?」 冷蔵庫をのぞき込む椿の後ろに立っていた智が後ろからのぞきこんできていた。 椿は冷蔵庫を閉めながら首を振った。 「いや……」 「え?じゃあどうして?」 「裕人が作りに来てくれるんですよね。俺友達いなくてひとりだから……晩御飯とか一緒に食べてくれたりしますよ。」 「……。」 へぇ、いい友達だね。 なんて言われると思っていた椿は、智から返事がないことを不思議に思い振り返った。 智は冷蔵庫を見つめると椿に目を戻してから、目を見開いた。 「あ、なにか服ある?適当に……ワイシャツ着て帰りたくなくて」 「え?あぁ……裕人のがあったかも」 裕人が荷物なしでここに来れるように、裕人のものは一応ここに揃えてある。 持って帰れとは言っているのだが、裕人が面倒くさがる上に割と頻繁に使うので文句も言えない。 どこに仕舞ったっけ?と考えながら椿は心当たりがある場所に目を走らせた。 「裕人くんの?ここに泊まったりするの?」 「あー、はい。たまに……。どうかしましたか?」 「……うーん……。」 歯切れの悪い返事をする智を特に気にせず、椿はタンスを漁りに行った。 ばたばたと開け閉めを繰り返せば、引き出し全てが裕人のもので敷き詰められている事実に直面してしまう。 知らなかった。 椿は心の中で文句を言いながら、その中から一つ引っ張り出した。 「だって智さん俺の服じゃ小さいですよね……これとかどうです?」 服を広げてみせる椿。 しかし、智はそれを受け取ろうとせず部屋を見回した。 「椿くんと裕人くんってさ、どういう関係なの?」 「……なんでですか?普通に友達ですけど……」 怪訝そうな顔をする智。 それにつられて椿も怪訝な顔をした。 どうしてそんなことを聞かれるのかわからない、と言った顔だ。 「友達が家に服置く……?」 「ええ……普通じゃないんですか?じゃあ幼なじみ……?」 「じゃあってなんなの……」 不服そうな顔をする智。 そんなことを言われても椿にとって友達は裕人しか居ないのだからわからない。 「だって、友達なんですも、……っん?!」 どうしたらいいのと思いながら智を見上げた時だった。 椿の腰がいきなり引き寄せられ、唇が形を変える。 「ちょ、智さ、んぅ……んん……っ」 ビックリして顔を引いた椿だったが智がそれを追いかける。 そしてついには首のあたりを固定されてそのまま唇を重ねられる。 「ん、んぅ……うぅ……」 必死に唇を引き結んでいれば、智はゆっくりと口を離した。 ぷは、と息をした椿は智を睨むようにしながら顔を赤くしている。 息を止めていたせいで肩が動いている。 「智さん、いきなり……」 「おはようのキスしてなかったなって思って。」 「……い、意味分かんないです……。」 いつの間にか椿の手元から離れていた服を拾った智はそれに腕を通した。 「とりあえずこれ、借りるね」 「何でちょっと怒ってるんですか……」 「怒ってないよ。」 完全に機嫌を斜めにしてしまった智。 椿はまだドキドキする心臓を撫でながら、キッチンに向かった。
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