51 / 53

第2―10話

昼食後に入ったカフェで、小早川は開口一番に言った。 「甲斐にね、自宅バレてました」 小早川は肩を竦めると、スマホをジャケットのポケットに入れた。 「…何かあった?」 葉月が小早川を心配そうに見つめる。 「うちのマンションに来た甲斐の部下と司城さんが一緒に出掛けたみたいです。 1時間位で無事に帰って来たってまーくん言ってましたけど」 「…そう」 葉月はホッとして息を吐いた。 「響くんは怪我して無いんだ?」 小早川はクスッと笑った。 「それは麗以ちゃんが確認してあげてよ」 「…な…何で俺が…」 葉月は赤くなると、慌ててコーヒーを口にした。 「気になるんでしょ? それにその方が司城さんも喜ぶし」 「…真琴が無事に帰って来たって言ってるんだろ? ならいいよ」 「でも司城さんは何をしに出掛けたのか、まーくんに言わないらしい。 勿論、誰と会って来たかも。 甲斐に無理難題言われたのかもしれませんよ?」 小早川の言葉に、葉月はスマホを取り出した。 『響くん、今朝何があった? 巽くんの部下と何処に行った? 怪我してない?』 葉月のLINEに直ぐ返事が来た。 『大丈夫だよ。 怪我なんてしてないから心配しないで。 甲斐の事務所に行った。 クリスマスパーティーの日の麗以のボディガードを頼まれただけ。』 「なんだ…」 葉月は安心して小早川にトークの内容を告げた。 「良かったですね」 小早川はにっこり笑った。 その後、物言いたげに葉月を見つめる小早川の視線に、葉月は気づかなかった。 小早川は終業時刻になると、さっさと葉月のデスクにやって来て 「麗以ちゃん、明日は泊まりですからね」 と笑って言った。 「あ、うん。分かってるよ。 源の家に泊まればいいの?」 「そうです。 司城さんの居る部屋なら、麗以ちゃんの寝るスペースぐらいありますから」 小早川はニヤニヤ笑う。 葉月の頭に、公園の駐車場の車の中で司城と交わしたキスと 『じゃあちゃんとした場所ならいいんだ?』 と打たれたスマホの文字が蘇った。 「…俺は…ソファで十分だから!」 葉月はパッと頬を赤くすると、パソコンに目を戻す。 小早川が葉月の肩をポンポンと叩く。 「パジャマなんかはまーくんのを貸しますから、気楽に来て下さい」 じゃあまた明日、と続けて小早川は会社を後にした。 小早川は会社を出たその足で歌舞伎町に向かった。 途中でチェーン店のカフェに寄って、ホットコーヒーを三つテイクアウトした。 「まーくん!司城さん!」 「あっれ~?源くん、どうしたのー?」 いつも司城が殴られ屋をしている通りに、司城と目白がいた。 目白は小早川を見つけると、ニコニコ笑って駆け寄って来た。 「これ、差し入れ」 小早川がコーヒーの入った紙袋を差し出すと、目白は中からひとつ取り出し司城に渡した。 司城は微笑んで受け取ると、コーヒーに口を付ける。 小早川もコーヒーを一口飲むと、司城の横顔に言った。 「クリスマスパーティーの日に、麗以ちゃんのボディガードするなんて嘘でしょ?」 司城は前を向いたまま、コーヒーを飲んでいる。 「ボディガードなら門脇さんを通す筈です。 司城さんは何をやらされるんですか?」 司城はデニムの尻ポケットからスマホを取り出すと、素早くフリックする。 『大したことじゃない。 俺のもうひとつの仕事。 いつものこと。』 「いつものことって…」 小早川が眉をひそめる。 『でも麗以には言わないで欲しい。 麗以はそういうの嫌いだから。』 「…じゃあ断れば?」 司城は端正な顔を崩すと、子供のようにニコッと笑った。 『クリスマスパーティーに出れば麗以の弾くピアノが聴ける。 イブに一緒に過ごせる。 だからいいんだ。』 「…響くん…」 目白が複雑な顔で司城を見る。 『クリスマスイブなんて今までどうでも良かった。 俺の人生には関係の無い日だった。 でも麗以のピアノが聴けて一緒に居られるなら…特別な日だから。』 小早川と目白は黙った。 司城はダウンロードしたリストの『愛の夢』をスマホから流した。 その繊細で美しいピアノの音は、雑踏と北風にすぐかき消された。
いいね
笑った
萌えた
切ない
エロい
尊い

ともだちとシェアしよう!