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Ⅰ ラ・カンパネラ①

光が舞った。 筋を切れ 繊維を切るのだ だが力を入れてはならぬ 小さく前後に動かせ、手早く! 且つ丁寧に! 薄く…… そう、固くなく 柔らかすぎもせず 適度な食感を残し、舌触り良し! 肉の旨みを最も引き立てる……… この黄金の厚さこそ 至上のローストビィィィーフ!!! 「どうぞ、お召し上がりください」 アビランドの白い皿に、切り立てのローストビーフを取り分けた。 「いつ見ても美麗だ」 「恐れ入ります」 心を込めて作った料理だ。 褒めてもらうのは、やっぱり嬉しい。 「お前の事だよ」 ………………え。 切れ長の瞳が、すっと見やった視界の中に俺がいる。 「あのっ」 「六文(ろくもん)に来て何年になる?」 「……えっと、七年です」 「そうか。上達したな」 優雅な手つきで、皿の上のローストビーフをフォークでさらうと口に運ぶ。 「料理長、見事な手さばきだった」 ………………あ。 (そゆこと) 美麗ってのは、俺の事じゃなくて。 ローストビーフを切り分けた俺の包丁さばきだ。 まったく、この人はッ! (知ってか知らずか、俺の気持ちを弄ぶ) ………つーか、俺なんかには手の届かない遠い人なんだけどね。 彼は、マフィアの頂点に立つ男 六文ファミリーのボス・六文(ろくもん) 信之(のぶゆき)様なのだから 群雄割拠のマフィア社会において、最も勢力を伸ばしているのは、(あおい)ファミリーだ。 ありとあらゆる手段を講じる葵に、次々にマフィアたちは降伏し、今や葵は日本の政治を裏で執り仕切るまでに至っている。 そんな葵に異を唱えたのが、六文だ。 日本中のマフィアが葵に従う中で、葵の卑劣な手腕に屈する事なく、六文は独立の道を歩んでいる。 彼への信望は厚い。 もちろん俺も、心から信頼している。 だが、しかし。 光が(くう)を裂いたのは、刹那だ。 俺の右手のナイフは、六文のボスの喉笛にあてがわれている。
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