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前編 30 篠原伸利

 教室を抜け出て、廊下に出たところで、牧島に行く手を遮られた。 「おっと」 「帰るのか? 一緒に部活行こうぜ」  その言葉に、俺は笑顔を作りながらも、眉を潜めた。 (顔が笑ってねぇよ、マキちゃん)  牧島が、わざわざ向かえに来た理由は解る。  俺が、ずっと部活に顔を出していないからだ。  シュウさんが訪ねて以来、部活に行っていないし、三崎先輩にも会っていない。いい加減、俺の態度に痺れを切らしたのだろう。 「俺は今日、部活行かねーのよ」 「なんで。ずっと来てねーだろ。いい加減サボるな」 「だって、今日おデートですもの」 「嘘つけ。商店街ブラブラしてるって、知ってるぞ」  うはっ。何その情報網。  俺は内心舌を巻きつつ、どう言いくるめるか考える。 「文化祭終わったら、先輩たち引退すんだぞ。来年は一年も入ってくるし。俺らがやんなくてどうすんだよ」 「んー、実はさ、辞めようかと思ってんのよ」  俺の言葉に、牧島がギロ、と睨み付けた。青筋のたった額が恐い。 「ハァ!?」  牧島が胸ぐらを掴む。 「ちょ、おい、マキちゃん」 「何ふざけてんだ、ここまで一緒にやって来て、逃げんのかよ!」 「ーーー良いだろ、別に……」  牧島が俺を壁に押し付けた。  思ったよりも強い力に、一瞬息がつまる。 「入学して、お前の名前があったとき、冗談かと思った」 「ーーーー」 「篠原伸利とサッカー出来るって、期待してたやつら、俺だけじゃないはずだ」 「俺はーーー」 「この前の練習試合、気持ち良くなかったのかよ!?」  ーーーー気持ち良かった。  気分が高揚して。  久しぶりに、楽しいと思えた。 「何とか言えよ!」 「ーーーーダメなんだ……」 「え?」  俺の呟きが聞こえなかったのか、牧島が聞き返す。  俺は顔をあげて、ニヤリと笑った。  するりと手を伸ばし、牧島の脇腹を撫でる。 「うっは、おっかねー顔。よくもまあ、カズミちゃん、お前で勃つわね」 「ん、ちょ、しの……!」  性的な意味を含ませた接触に、牧島が身をよじる。  とたん、表情が幼くなって、俺は思わず吹き出した。 「ふはっ、なに、マキちゃん感度良好? うはっ。マジで俺と寝てみる?」 「ざ、けんなっ」  そう言って、牧島が俺を振り払おうとしたとき、横から声が聞こえた。 「ーーー何してんの、シノ」  魔王と化した幼馴染の視線に、俺は思わず唾を飲んだ。
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