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第4話 2、ジルの日常②

 しかし、6歳になった頃には属性が出ないのは素質がないからだとわかってしまった。だが、諦めるわけにはいかなかった。  両親に抱きしめて欲しかった。  家族として認めて欲しかった。  だが7歳になっても、ジルに属性は現れなかった。ジルは、属性が現れるよう頑張ると同時に、もし無属性のままだった時のことを考え、使用人の一人に短剣を用立てて貰った。  錆びた使い古されたその短剣は、ジルにとって初めての武器となった。独学で手入れ法を学び、今でも愛用している。  そんなジルだったが、転機が訪れた。魔法学園に入学という、本人の能力や意志は全く無視されたものだったが、ジルはそれに従った。今まで独学で頑張ってきたが、専門の先生に教えて貰えばもしかしてと、期待を持った。  無情にもそれは叶いそうもない現実が待っていたのだったが……。  16歳になり、ジルは現実を受け入れつつあった。このままやはり無属性のままだろうと。Ωとしての発情期も未だなく、番の相手とも出会えることはなかった。だが、庶民として暮らしていく中で、自分の番と出会えるかもしれないと期待を持った。  今日の授業も終わり、寄宿舎の自分の部屋へ戻る。ジルの部屋は二人部屋だった。相手はクレール・ギスラン。同じFクラスの水属性、Ωだった。クレールはとても華があり、ΩらしいΩだった。みなクレールに気に入られたいと媚を売り、クラスの中心的人物であった。来年度も恐らくはこのまま同室だろうと思われる。  幸いなことに、クレールは人気者だったので、あまり部屋には帰ってこず、いろいろな部屋で寝泊まりしていた。だからジルは一人でこの部屋で過ごすことが多く、自分の時間を確保することが出来ていた。  部屋に戻り、ジルはいつものように愛用の短剣と針の手入れをする。もし魔獣が現れた時には、自分の身は自分で守らなければならない。今は大丈夫だが、いつこの近辺にも出没するか分からない。いつでも身を守れるよう肌身離さず持っていた。  夕食の時間になり、ジルはいつものように一人俯きながら、食堂へ行く。  今日は美味しそうなガーゴイル(鳥系)のステーキだ。ジルはおなじみの、ガーゴイルの肉は割と好みだった。鳥系の肉はさっぱりとして、ジルは美味しく食べることが出来る。後は、パンに、付け合わせはキノコのソテーと、海藻のスープだ。  手を合わせ、命を頂くことに感謝の意を込める。さあ、食べようとした時、同室者のクレールの高笑いが聞こえてきた。  もう少し早めに食べていればよかった。  そう思ってももう遅い。クレールはジルに気付くと、嘲るように笑いながらやって来た。 「やあ、無属性で役立たずのΩさん! やっぱり一人で食事なんだね」  クレールの言葉に、取り巻きたちも嘲る。 「アハハハ! 無意味に居座っている奴だな」 「いつ、学園を去るんだい?」 「まさか進級しようなんて考えていないよね?」  その言葉に力を得るように、クレールは更に続ける。 「また君と同室なんて嫌気がさすよ。来年度は是非辞めていただきたいね。僕のように綺麗な水属性のダイヤモンドダストが出せればまあ、同室でも考えてやってもいいけど? ああ、君は全くの無能者だから無理だったね」  取り巻きたちも大きな声で嘲笑っていた。ジルは小さく息を吐き、トレーを持ったまま立ち上がった。 「負け犬は早々に立ち去るといいよ。食堂だけでなく、この学園からね。アハハ!」  ジルはクレールの言葉を背に受けながら、とぼとぼと歩いた。  タイミングが悪かったな。  そう思いながら、ジルは手つかずで申し訳ないなと思いながらも、そのままトレーは返却した。あの嘲りの中で食事をするなんてジルには出来なかった。自室へ戻る途中、売店でパンを一つ買った。  傍のベンチに腰掛け、もそもそとかじる。  気にしない、気にしない。本当のことだもの。  在籍させて貰えるだけでもありがたいと思わなきゃ。  手が止まりそうになるが、そう叱咤し、とにかく食べる。ジルは、食べなければ始めらないとばかりに、一つのパンを食べた。  自室に戻り、自室に完備されているシャワー室で汗を流す。その後は、今日の授業の復習と、明日の予習。無属性なので理屈でしか物事が理解できないため、予習と復習はジルにとっては必須だった。シメオン先生から聞いた、庶民の暮らしの話もノートに纏める。  粗方区切りがついた時、ふうっと息を吐く。今日も一日が終わったと、安堵の息を吐いた。明日もとにかく頑張ろうと思い、本とノートをカバンにしまい、ベッドに入ると、目を閉じた。  まだ誕生日までは、時間がある。  ……でも、やっぱり無理なのかな……。  もう半年後には17歳になる。タイムリミットまでは、足掻き続けようと思うが、これまでの時間を振り返ると、無駄なことかもしれないと思った。  ダメだ。ダメ。まだ時間はある。  シーツを引っ張り頭から被る。  明日も、頑張れ。  そう自分を励ました。  そんな毎日を過ごしていたら、あっという間に新学期が始まった。ジルは変わらずFクラス。クレールもその取り巻きたちも同じくFクラスになった。 「うっわ~! まだいたんだ! もう最悪~!」 「無属性が魔法の勉強しても意味がないなんて、わかりきってるだろ?」  ……気にするな。本当のことだから……。  いつものように俯きながら教室に入ろうとするが、クレールの取り巻きたちに入り口を塞がれてしまい、中に入ることが出来ない。 「……あの、通して……」  そう言いかけた時、取り巻きの内の体格の良い一人が、思い切り肩にぶつかってきた。  ドン! 「……う、わっ」  思わずその勢いのままはじき飛ばされ、後ろに軽く吹っ飛んだ。 「ねえ、僕は君に『新学期までには辞めて』って言ったよね? 無属性が、目障りなんだよね。出て行ってよ」 「……」  ジルはそれでも、自分からここを立ち去りたいとは思わなかった。学べる間は学びたい。 「なに? 僕の言うことが聞けないって言うの? ああ、そう。なら、どうなってもしらないよ? 一年は猶予をあげたはずだよ?」  クレールは、アハハと笑いながら言った。取り巻きの一人も続ける。 「……おい、もう今日は帰れよ。そのまま実家に帰れ」 「……」  ジルは、今はシメオン先生の部屋に行こうと思った。事情を話し、教室に入れるように仲介して貰おうと考える。鞄を肩から斜めにかけ直し、とぼとぼと歩き出した。  背後から大きな嘲笑が聞こえる。気にしない、気にしないとは、今のジルには思えなかった。  ……もう潮時なのかな。頑張りたいけど、無理なのかな……。  今まで見ない振りをしていた現実が、重く重くのし掛かる。シメオンの元に向かおうと思っていたが、向きを変え、裏庭へ続く道へと歩いて行った。  後数ヶ月もすれば、ここにはいられなくなるんだし、もう、辞めた方が……いいのかな?  木陰に座り、足を投げ出しながらぼんやりと考えた。空を見上げ、雲の一つをじっと見つめた。その視界に突如人影が現れた。
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