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第14話 12、初めての夜

 二人は部屋へ戻り、ジルは自分の荷物の確認を、リヒトはお風呂の準備を始めた。水は蛇口から出てくるので、そこに魔石を投入する。あっという間に暖かい湯の出来上がり。 「じゃあ、とりあえずジルが先に入りなよ。俺は後からでいいし」  リヒトはそう言うも、ジルも慌てて言った。 「ええ? 悪いよ。お先にどうぞ」 「いやいや、ジルが先に入って」 「ええ? 部屋の主が先でしょう?」  なんて会話も恋人同士みたいでいいな、なんて、呑気にリヒトは考えていた。 「俺、先にさっきのことまとめたいから、先に入ってくれる?」  そう言われると、ジルは納得せざる負えなくて、しぶしぶ返事をした。 「……うん。分かった。本当に先でいいの?」 「うん。本当に」  ジルは着替えを出し、いそいそと風呂場へ向かった。水音がし始めると、リヒトはちょっとドキドキしてきた。童貞花畑である。妄想が妄想を産み、あらぬことを妄想する。  今ここで、風呂場に向かう勇気があれば、ジルとの距離も縮まるのか? なんて思いながらも、とりあえず広げたノートとにらめっこする。するが、耳がダンボになったように、風呂場から意識が離れない。  透視。  いやいや! それは不味いだろう!  リヒトは一人で悶絶する。  瞬間移動。  いや、それもばれたら嫌われるかも。  とにかくジルとの距離を、もっと縮めたい。もっと仲良くなって、親密になって、あんなことやこんなことも、したい!   そしてハッと気づく。  そうだ、ここには今、ベッドは一つ!  これはチャンスか? よし! 男は度胸!   余計な知識だけは、聞いてもいないのに、兄のラオネとドニスから沢山貰っている。  よし! チャンスは活かせ! 頑張れ俺! 「リヒトくん、上がったよ」  ジルの声が聞こえてくる。  呼ばれた? もしかして誘われている?  なんて、胸をときめかせて風呂場へ向かう。  ……残念。  パジャマ、着ているし……  とは言え、風呂上がりのジルは、先程とは違った可愛さが滲み出ている。まだ水気を含んだ髪を拭きながら、パジャマの一番上のボタンはとまってないから、髪を拭く動きに合わせてチラチラと鎖骨が覗いて見える。  思わずリヒトは、ごくっと生唾を飲み込んだ。 「リヒトくんもどうぞ」  にっこり笑って誘われ、誘われるがまま、リヒトは服を脱いだ。同じ男同士だからか、ジルは至って普通の反応だった。髪を拭きながら、ジルはそこから立ち去った。  ……ちょっと残念。だけど……ジルの入ったお風呂……。  そう思うと下半身に段々と熱が集まってくる。いつもの風呂がパラダイスに見え、リヒトは一人興奮していた。  隣の部屋にはジルがいる。そして今、ジルが入ったばかりのお風呂にいる。 「……ふっ……」  気付けばリヒトは一人、自身の昂った性器を扱いていた。  これでジルの中を突きあげたい。中をかき回して、俺の種を注ぎ込みたい。そのまま発情して、項を噛んで、俺だけのものにして、ここに閉じ込めて、誰にも見られないようにしたい。  次から次へと、己の欲望が浮かんできて、性器を扱く手が速くなる。  ビュクッ……。 「……ハッ、ッ……」  ジル、ジル、ジル。  早く繋がりたい。  でも、あんなに静かに笑う人に、怖い思いをさせたくない。優しく優しく囲い込みたい……  俺だけを頼って、俺だけに心を開いて、俺だけと一緒にいて欲しい。  だからゆっくりと、出来るだけ自制し、時間をかけて、心を開いてもらえるよう努力しよう。  リヒトは、手に残る自分の欲望の跡を見つめ、そう思いながら湯で流した。  実は、何事もなかったかのように見えたジルも、やはりドキドキしていた。  少なくとも前日は、リヒトはここでお風呂に入っていたはず……  そう思うと、胸の辺りがざわざわと騒ぎ出す。頭を振り、邪念を振り払う。しかし、頭から離れない。  なんだか腹の奥がジクジクと熱を孕むような、そんな感覚にドキドキしていた。  気のせい、気のせい!  無理やりにそう思い、しかし隣の部屋に居るリヒトの事が、頭を離れない。  リヒト、くん……好き。  そう思った瞬間。  ポン。  小さな小さな光が現れた。  え?  自分一人では出せない魔法なのに、どうして?  不思議に思うが、小さな光は、ポン、ポン、ポンと、次から次に出てくる。ジルは慌ててその光を手でかき消そうとしたが、どんどんどんどん溢れてくる。呆然と見つめていると、キラキラ輝き、ジルの周りを囲んでいた。  リヒトくんのこと、考えていたからかな……  ……リヒトくん。僕の番。僕だけの……リヒトくん。大好き!  そう思った瞬間、パッとその小さな光が、大きな光となった。そっと手を伸ばし、触れてみる。  温かい……そうか。これは僕のリヒトくんへの想いなんだ。  そっと手で抱き、自分の胸に引き寄せると、スーッとその光は胸の中へ消えていった。不思議な事に理解が追いつかないが、ジルの胸はぽかぽかと温かくなった。  脱衣所でリヒトの裸を目にしたとき、体の奥が痺れた気がした。慌ててジルはその場を立ち去ったが、胸の中はざわめいていた。落ち着かなくて、ジルは兎にも角にもソファーに座った。  ハッと気付く。  ベッドは、一つ……  うっわ~! 一緒? もしかして一緒に寝るの?  いいのかな? ……よくなかったら、ぼくがソファーで寝ればいいんだ。  そうだ。ここで寝よう……ビックリした。うん、びっくりした……でも、一緒に……寝ても、いいのかな?  ううん、ダメダメ! あんなに爽やかな笑顔のリヒトくんだもの。  こんなこと考えてるのが知られたら、嫌われちゃうかも!  なんて同じような事を、二人は考えていた。しかし、ジルは忘れていた。ピアスの事を……  脱衣所で体を拭きながら、リヒトはぼんやりとジルの事を考えていた。その時に飛び込んできたジルの気持ち。  いやいやいや! 俺、一緒に寝る気満々だしっ!  是非とも一緒に寝よう!  心の中でジルに叫んだが、爽やかさを前面に押し出したいので、ジルへの通信には蓋をしていた。二人は勿論童貞同士。夢に夢見るお年頃。お互いにかなりの意識をしながら、二人は初めての夜を迎える。 「ジル、あがったよ。今日は色々あったから、もう寝る? もう少し話をする?」  やましい気持ちを隠しながら、リヒトはさり気なくベッドへ誘う。 「え? あ、うん。そうだね。もう寝ようか」  ちょっぴりドキドキしながら、ジルも答える。 「ベッド、一つだから一緒でいい?」  なんて言いながらも、拒否の答えは受け付ける気は更々ないリヒトは、ジルの手をそっと繋いでベッドへ誘う。 「あ、うん。でも、僕が一緒だと狭くなっちゃうかもよ?」  そう聞きながらも、ジルもその手を引かれるままにベッドへ向かう。 「意外に広いんだよ」  セミダブルの広さのベッドなので、余裕で大丈夫だと、リヒトは思った。 「そうだね。じゃあ、一緒でいいかな」  ジルはふふっと笑いながら答えた。  ジルの笑顔は胸にくるっ!  心では悶えながら、爽やかな笑顔でリヒトは応えた。
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